小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

新撰組異聞__時代 【前編】

INDEX|9ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

                    4
 勇は、歳三の期待に反する表情をした。
 てっきり、喜びのあまり舞い踊るかと思ったのだが。
 「何だよ。家茂公上洛の警備だぜ。役に立ちたいってこの間嘆いててただろうが。嬉しくないのか?」
 「そりゃぁ、嬉しいよ。だがトシ、私はここを離れる事は…」
 「大先生たちの事を云っているんですね?近藤さん」
 「それでか」
 勇は、土方家の養子である。跡継ぎに恵まれなかった近藤周助は、試衛館の次期道場主、近藤家の跡取りとして勇を迎えた。期待の大きさはどれほどのものか。その期待を、裏切るのではないか___。勇は、そう思ったのである。
 「考えさせてくれ」
 「結論は急がねぇよ。あんたの答えに、俺は従うよ」
 すっかり冷めた茶に口をつけながら、歳三はそれ以上何も云わなかった。
 「降ってきましたね」
 障子を半分開いた総司が、空を見上げた。
 厚く層を成した薄墨の雲の間から、白い物が舞い降りてくる。
 季節は、もうすぐ師走を迎えていた。
 「何事もなく一年を終わりたいですね」
 「よせよ。これから何か起きるようじゃねぇか」
 「嫌だなぁ。すぐマジに受け止めるんだから、土方さんは」
 チラチラと舞うその下で、彼らは複雑そうに見上げていた。
 そしてこの男も。
 「冷えてきたと思ったら雪か…」
 火鉢の灰をサックリと火箸で掻き混ぜながら、桂小五郎は空を見た。長州では、雪は小五郎の記憶にはない。
 ___久坂は、もう長州に帰ったのだろうか?とても急いでいたようだが。
 その理由(わけ)を、彼は知らない。
 この日、その久坂こと久坂玄瑞と高杉晋作ら数名が密談していた事も。
 「薩摩に、遅れてはならぬ」
 「そうだ。我が長州も異人を討つ」
 「しかし、今江戸には勅使がいる。朝廷を刺激するぞ」
 「ならば、いい方法がある」
 少し京訛りの男が、その中にいた。
 「岩倉さま」
 「もし成功すれば、長州こそ尊皇攘夷の志士と帝に言上しましょうぞ」
 『岩倉さま』は、開いた扇の間でそう云ってニヤリと笑った。

 12月12日。
 江戸を、ひんやりと乾いた空気が包まれていた。
 歳三は、総司と共にぶらりと刀剣屋に寄った。
 もし、京に向かう事になったら差料(※ 刀)はしっかりしたものがいいだろうと思ったのだ。
 「御殿山まで、行ってみるか」