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新撰組異聞__時代 【前編】

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 情勢は、一向に改善する事はなかった。
 得に、長州、薩摩の動きは幕府にも読めなかった。後にこの二藩によって、三百年の幕政に終止符をうたれようなどとは。
 「先生、お久しぶりです」
 江戸の町、声をかけてきた男は故郷・長州の人間だった。
 「やぁ、久坂。いつ江戸へ?」
 「三日前に。しかしその先生はやめてくれないか?」
 「いえいえ、今や練兵館の師範代じゃありませんか」
 江戸三大道場の一つ、神道無念流の練兵館。
 「私は昔のままだよ」
 「では、桂さん」
 「それでいい」
 男は、にっこりと笑った。この男、後に維新の立役者の一人となる桂小五郎である。
 「では急ぎますので」
 久坂は、そう云って去っていく。この時、その兆しを小五郎が覚れば歴史は少し変わっていただろうか。時代の波は変えられなくても、同郷の士の血を多く流す事は避けられただろうか。
 それは長州に限らず、何処も同じなのではなかったか。
 「あんた…」
 聞き慣れぬ口調に、顔が上がる。
 ____今日は、よく声を掛けられる日だな。
 「おや。確か…土方さん」
 「やっぱり桂さんか」
 歳三は、前髪を掻き上げながらそこにいた。