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新撰組異聞__時代 【前編】

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 文久2年。
 「いやぁ、めでたい」
 扇子をパタパタ煽ぎ、カッカッカッと笑う男に前にいる男は眉を吊り上げかける。
 「勝ちゃん、めでたいのは理解ったから飯、静かに食えねぇのか?」
 「トシ〜、そんな顔していると皺増えるぞ。偶には笑え。気持ちいいぞ、うん」
 「だから…っ」
 飯粒を飛ばしてくる幼なじみに、歳三は箸をもつ手をふるふると震わした。
 この年、将軍・徳川家茂の婚儀が行われた。相手は、孝明天皇の異母妹・和宮。
 朝廷とぎくしゃくした関係を修復するべく、天皇家との婚姻を図ったのである。
 「これで大樹公も安泰」
 まるで自分の事のように喜ぶ勇に、歳三の怒気は冷めた。
 幕府から禄をもらっているわけでもなく、幕臣でもなく、一介の浪士である彼らがどんなに盛り立て喜ぼうとも、所詮は雲の上。将軍が声をかけてくれる事などあろう筈もなく、それでも勇の熱は高い。だが、この想いがなければ後に浪士隊に加わり将軍上洛に従わなかっただろう。
 「とにかく、上にとっては一つ問題解決か」
 膳のアジの干物に箸を入れ、呟いた。
 そして、それは静かに始まった。
 朝廷からの勅使が城を辞して間もなく、将軍・家茂は老中、安藤信正を呼んだ。
 「___上様、お召しにございますか?」
 「松平、朝廷は、余に上洛をと云っている」
 「上洛をでございますか」
 「余は、上洛しようと思う。せっかく朝廷との関係が修復されたというに、ここで帝のお怒りをかえぬ。和宮の事も知りたいであろう」
 家茂に、意義を唱える者はいなかった。
 そんな案を、最も喜んだ男がいる。
 「都は、帝の御膝元でございますが何が起こるか理解りませぬ。上様に何かあっては一大事」
 「清河、どうせよと?」
 「上様警護の、浪士隊結成をお許しを」
 「幕臣ではなく、浪士に上様を警護させろと?」
 「彼らは、国を思うばかりに暴挙にでるのでございます。ならば、国のために力を存分に振るえるとあらば、喜んで従いましょう」
 「なるほどな。よかろう」
 「は」
 清河は頭を下げながら、ニヤリと唇を吊り上げていた。