新撰組異聞__時代 【前編】
安政五カ国条約(あんせいのごかこくじょうやく)とは、安政5年 (1858) に江戸幕府がアメリカ・イギリス・フランス・ロシア・オランダの五ヵ国それぞれと結んだ条約の総称をいう。正式名はそれぞれ日米修好通商条約・日英修好通商条約・日仏修好通商条約・日露修好通商条約・日蘭修好通商条約である。
しかし、これが朝廷の公家たちを刺激した。
「主上(※ 天皇の敬称)の勅許を得ずに異国と契約するとは何事ぞ」
更に江戸では、将軍継承問題がある。水戸藩が推す後の15代将軍・徳川慶喜の一橋派と、井伊直弼らが推す御三家・紀州徳川家から向かえる南紀派と二つに分かれ、井伊直弼が推す南紀派が勝った。何もかも井伊の思う通りであった。面白い筈がない。
その後ろ盾を、時の将軍・14代将軍、家茂は失った。
「余は、これからどうすればよい?」
彼は、井伊の死を知り側近に漏らしたと云う。
「江戸も、安全じゃなくなってきたな」
歳三は、云う。
果たして、このままこの生活を続けていていいのか。
『帝のおわす国から異人と異国を討つべし』
黒船以降、そんな尊皇攘夷の声が高まっている。いずれ何かが起きる、歳三はそんな予感がしていた。だからこそ、このままでいいのかと自身に問う。
「なぁんだ。土方さんいたんですか?」
汗をびっしり掻きながら、総司が立つ。
「いたとは何だ。お前まで」
「トシ〜、大人げないぞ」
「あんたは、総司を甘やかしすぎだ」
この時、彼らを必要とするその足音は、近くまで来ようとしていた。
作品名:新撰組異聞__時代 【前編】 作家名:斑鳩青藍