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新撰組異聞__時代 【前編】

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 「うぉりゃ!」
 江戸、市谷甲良屋敷。『試衛館』と掲げられた剣術道場に竹刀のぶつかる音が響く。
 「まだまだ!」
 「沖田さん、ちょっとたんま…、うわっ」
 「よけないで、受け止めてください」
 「若先生、殺されるぅ〜」
 涙ながらに訴える弟子たちに、『若先生』は苦笑いをするだけだ。
 これでは、いつまでたっても芋道場だなと。
 江戸には、士学館、練兵館、玄武館と三代道場と云われるものがある。鏡新明智流の士学館。神道無念流の練兵館。そして北辰一刀流の玄武館の三つである。
 天然理心流の試衛館と聞いて、「はぁ?」と云われるほど、ここは未だそんなには知られてはいない。
 「まったく、情けねぇ」
 「よぉ、トシ。いつからそこに?」
 戸口に寄りかかる男に、彼は苦笑いのまま視線を向けた。
 「笑っている場合じゃないぜ、勝ちゃん。あんた、ここの主だろうが」
 「私は未だ主じゃないよ。しかし、総司はいい腕だ」
 「あんたの性格、羨ましいよ」
 やや呆れ顔で『トシ』は、溜息をついた。
 古い付き合いである。勝ちゃんこと、近藤勇が未だ勝太と呼ばれていた試衛館弟子時代から、歳三は彼と息が合った。
 共に農民の出で、今や近藤家の次期主となった勇が羨ましくも頼もしくも感じていた。
 その歳三も、試衛館に弟子入りし、中でも現試衛館一番の腕となった沖田総司は勇が惚れ惚れするほどに成長していた。
 「で、市中はどうなってる?」
 「町ン中は、そうでもないが上は穏やかじゃないだろうな。時の大老が、バッサリなんてな」
 「おいおい」
 口を慎めと勇みが制すが、歳三はそれがとうしたと云わんばかりに鼻で笑う。
 「あんただって、そう思ってんだろ?」
 「まぁな。大樹公(※ 将軍のこと)も気苦労が多かろう」
 黒船来航から10年後の安政7年、大老・井伊直弼の行列が水戸浪士によって襲撃、大老が暗殺されると云う事件が起きた。桜田門外の変である。
 理由は、 孝明天皇から勅許が得られないまま独断で安政の五ヶ国条約に調印し、将軍継嗣問題を裁決したうえ、安政の大獄で反対勢力を弾圧していた井伊直弼に対し、水戸藩主の父・徳川斉昭への謹慎処分などだ。