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新撰組異聞__時代 【前編】

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 江戸出発は二月と決まり、歳三は古道具屋に吸い込まれた。
 「いらっしゃいまし。何かお探しで?お侍さま」
 「いや、得には」
 「土方さん、面白そうなものがありますよ」
 「総司、お前なぁ、遊びに来たんじゃねぇぞ」
 甲冑の前ではしゃぐ総司に、歳三は眉を寄せた。
 蓋がない釜や、取っ手の取れた鉄瓶、狸か犬か理解らない置物、商売としてよく成り立つものだと呆れながら、歳三の目が止まる。
 「主、これは?」
 「それでございますか?」
 朱鞘の、一振りの長刀。
 「___和泉之兼定でございます」
 史実では、和泉之兼定の出は書かれていない。だがこの刀は、今も歳三の生家に保管されている。
 「いくらだ?」
 主は、少し間をおいて首を振った。
 ___この野郎…っ。
 怒りのまま、店を出る歳三に総司が躊躇いもなく声を掛けてくる。
 「高かったんですか?」
 「あの男、俺の方に値をつけやがった」
 「はぁ?」
 『お侍さまには、ご無理かと』
 主は、そう云ったのだ。
 この後、彼は故郷・日野に帰り、義兄に借金をする。
 和泉之兼定を手に、「これで、文句はねぇだろ」と古道具屋への一睨みで震え上がらせた事は云うまでもない。
 因みに、勇は虎徹、総司は菊一文字を愛刀としたという。