新撰組異聞__時代 【前編】
3
江戸出発は二月と決まり、歳三は古道具屋に吸い込まれた。
「いらっしゃいまし。何かお探しで?お侍さま」
「いや、得には」
「土方さん、面白そうなものがありますよ」
「総司、お前なぁ、遊びに来たんじゃねぇぞ」
甲冑の前ではしゃぐ総司に、歳三は眉を寄せた。
蓋がない釜や、取っ手の取れた鉄瓶、狸か犬か理解らない置物、商売としてよく成り立つものだと呆れながら、歳三の目が止まる。
「主、これは?」
「それでございますか?」
朱鞘の、一振りの長刀。
「___和泉之兼定でございます」
史実では、和泉之兼定の出は書かれていない。だがこの刀は、今も歳三の生家に保管されている。
「いくらだ?」
主は、少し間をおいて首を振った。
___この野郎…っ。
怒りのまま、店を出る歳三に総司が躊躇いもなく声を掛けてくる。
「高かったんですか?」
「あの男、俺の方に値をつけやがった」
「はぁ?」
『お侍さまには、ご無理かと』
主は、そう云ったのだ。
この後、彼は故郷・日野に帰り、義兄に借金をする。
和泉之兼定を手に、「これで、文句はねぇだろ」と古道具屋への一睨みで震え上がらせた事は云うまでもない。
因みに、勇は虎徹、総司は菊一文字を愛刀としたという。
作品名:新撰組異聞__時代 【前編】 作家名:斑鳩青藍