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連載小説「六連星(むつらぼし)」第26話~30話

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 「あら珍しい。あなたが、わざわざ私を出迎えに出てくるなんて。
 でも良くわかったわね、私が此処へ来ることが。」

 「朝早くから御苦労さま。全部聞いたよ、響から」

 「ふ~ん。あら、そう。聞いたの響から、全部。
 桐生の下町の狭い道なんか、すっかり忘れたかと思っていたけど、
 心配をしてたけど、案外、昔のままに残っているのねぇ。
 ここの露地だって、あたしが遊んでいたときのままだし、懐かしいわ。
 あの頃からなんにも変わっていないのねぇ、ここらあたりは。」


 「このへん一帯は、この夏に、伝統的建築群保存地区の指定を受ける。
 昭和初期の古い家が、ここでは、全戸数の半数以上も残っているんだ。
 俺たちよりも、はるかに年寄りの町なんだぜ、桐生という町は。
 それにしても、ずいぶん飛ばしてきたみたいだねぇ。
 響はさっき帰ってきたが、徹夜の看病疲れで高いびきをかいて、
 寝ている頃だ。
 君が来ることは承知していたようだが、どうする?
 起こしてこようか」


 「あら、そう、寝たばかりなの・・・・
 じゃ、可哀そうだから、そのまま寝かせておいて下さいな。
 そうですねぇ。階下であなたと話し込んだら
 あの娘も落ち着かないだろうし、安心して眠ることができないでしょう。
 メールでちょっぴり、叱りすぎちゃったから、あの子も今頃は
 反省をしているだろうし、まぁそれで良しとしましょうか。
 でも今から、病院へ行くには早すぎます。
 あらまぁ、私ったら。なんだか、あっというまにすることが無くなって、
 手持無沙汰になっちゃっいました」


 時間はまだ、朝の8時を回ったばかりだ。
先ほどまで、露地を賑やかに通り過ぎていった子供たちの歓声は、
いまは校庭でひとつに集結している。
こどもたちは間もなく聞こえてくる、始業のチャイムを待っている。
俊彦が「それじゃ」と、助け船の提案を出した。



 「暖かくなってきたし、春の花もだいぶ咲きはじめてきた。
 どうだい。久しぶりに公園まで、2人で散策でもしょうか。
 哲学の小路あたりで、君の大好きなスイセンが咲いているかもしれないぞ。
 どうする。行って見るかい?」


 「それも悪くないわね。
 じゃあ、ちょっと着替えさせてもらおうかしら」

 清子が、ミニクーパーの後部座席から、大きな紙袋を取り出す。
「あなたは覗かないでね。もう、見てもらえるほどの身体ではありませんから」
と笑いながら、清子が玄関に隠れて着替えを始めてしまう。

 数分もしないうちに、薄いピンクの上下のランニングウエアに、
同色のランニングシューズを履いた清子が、首に、青いタオルを巻いて現れた。
大きめのウエアのせいもあるが、確かに腰のあたりを中心に、
清子の身体全体が、ふくよかに見える。


 「へぇ・・・見るからに、本格派のジョギング女子だ。
 たしかにそう言われると、少しだけ、何故かふくよかに見える」

 「少しどころか、大ピンチ状態です。
 あっというまに脂肪が増えて、お腹回りなんか、もう危機的状況だわ。
 昔のようにはいかないけれど、ぽっちゃりしすぎると
 着るものが無くなるから、不経済になるのよ」


 「昔は着物のラインを整えるために、タオルなどを入れていたけど、
 今はもう、その必要もなくなったと言う意味かい。
 うん・・・・見るからに、確かに、大変な状態のようだね」


 「よく言うわ。あなたのお腹だって同じようなものです。
 人のことを笑っている場合では、ありません。
 昔はたしか、ウエストは78センチの細見だったはずなのに、今はまるで
 見るからに、『タヌキ』そのものに見えますもの」

 「やれやれ、中年にさしかかると、会話にも色気がなくなるな。
 ん。なんだ、それ・・・・」
 

 清子が大きな紙袋を、俊彦の目の前に突き出す。
袋の中には男物と思われる、上下のジョギングウエアと運動靴が入っている。


 「お揃いのピンクにしようと思ったけれど、それもこの歳になると、
 さすがに無理があります。
 ですからあなたの分は、薄いブルーにしました。
 靴は25・5センチで、ウエアは万一のことも考えて、Lサイズです。
 ほらぁ、いつまでも笑っていないで、これに着替えてよ。
 走れとはいいませんが、これで一緒に歩きましょう。
 同じメーカーの、同一仕様の、お揃いのランニングウエアです。
 これならどこからどう見ても、長年連れ添った、中年の
 ジョギングカップルよね。うっふふ」