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連載小説「六連星(むつらぼし)」第26話~30話

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 「お母さんは、めったに怒りません。
 でも今回だけは事情が異なると、カンカンです。
 俊彦さんの処に、居候して迷惑をかけている身分のくせに、
 さらにあなたの不注意から喧嘩の原因を作るなんて、軽薄過ぎます。
 たっぷりお説教するから、覚悟しなさいと、朝から
 烈火のように怒っています。
 どうしましょう。
 強制的に、湯西川へ連れ戻されるような事になったら・・・・」


 「なるほど・・・・お母さんが怒るのも無理はない。
 英治君をまきこんで怪我をさせてしまった事実は、取り返しがつかない。
 大切にすべきことは、相手を想いやる気持ちをいつでも最優先にすることだ。
 君の場合、そいつが少しばかり希薄になっていたようだ。
 感謝の気持ちや、相手をいたわる気持ちを、ちゃんと伝えることが大切だ。
 お母さんは、君の軽薄さを見破ったようだね。
 だいいちひとつ間違えば、英治クンではなく君が大怪我をする
 可能性だって、あったんだからね」


 「そういえば、その通りです・・・・
 あ。そういえば英治クンにちゃんと謝罪もしていないし、
 お礼も言っていません。
 黙ったまま、病室から帰ってきちゃいました。
 どうしましょう。やっぱり私は、配慮が足りな過ぎますねぇ。
 やっぱり。お母さんが、朝から怒るわけだぁ」


 「君は、察しが良い。
 そうやってたくさんの失敗を経験をしながら、人は成長する。
 君への教育の良い機会だと思って、お母さんは飛んでくるんだろう。
 怖いけど、いいお母さんじゃないか。君のお母さんは」

 「あっ、言っている傍から、もう到着をした!
 間違いないわ。あの音は、私の『じゃじゃ馬』号のエンジン音だもの。
 速いわね~、いったい何時に、湯西川を出発したんだろう。
 まずいなぁ・・・・
 私の心の準備が、何ひとつできていないというのに」


 俊彦が、窓からそっと表の様子を覗く。
響が言うように、見覚えのある真っ赤なミニクーパーが、アパートの駐車場へ
姿をあらわした。
響が玄関で、そわそわと立ち上がる。


 「早く2階へ上がって、そのまま寝てしまえ。
 うまく言い訳をしておくから、心配しないで、君は言うとおりにしろ。
 お母さんの顔は見たくないんだろう?。君としては」


 響が、あわてて階段を駆け上がっていく。
あわてて駆け上がっていく後ろ姿を、俊彦が嬉しそうに見上げる。
バタバタと2階で足音が響いた後、ドスンと最後に大きな物音が聞こえてくる。
どうやら響が、無事に布団にもぐりこんだようだ。
(やれやら・・・なんとか、間に合ったようだな)サンダルを履いた俊彦が、
何食わぬ顔で、格子戸をあけて表に出る。
ちょうど清子が、ミニクーパーからドアを開けて降りるところだ。
荷物を片手に、清子が俊彦に微笑みかける。