小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第26話~30話

INDEX|6ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 「なんだぁ?。お前も帰るのか? 冷たい奴だな、お前も。
 大怪我にならなかったとはいえ、英治くんは、お前さんの命の恩人だ。
 身体を許せとは言わないが、キスくらいはプレゼントしてやれ。
 それが嫌でも、せめて、一晩くらいは看病で付き合ってやれ。
 それが、礼儀と言うものだ」

 俊彦が手を振りながら響を置いて、遠ざかっていく。

 (なにさ。人の気も知らないで、勝手に呑気なこことばかり口にして・・・
でもまあ、たしかにトシさんが言うように、それにも一理ある)
響がそのまま廊下で立ち尽くす。
「看病してやるか。あいつのことは、あまり好きじゃないけれど・・・」
もう一度、廊下の先を響が見つめた時、大人たちは早々と立ち去って、
静かな闇だけが、そこに広がっている。


 (大人ってやつも、けっこうドライだな・・・・
 英治が『破門』されたということは、あのお金の扱いは、どうなるんだろう。 
 まぁいいか。どうせ結果は、なるようにしかならないもの。
 じゃ、病室へもどってやるか。でも間違っても私は唇なんかあげません。
 もと不良の英治クンなんかに・・・)


 表へ出た俊彦が、ポケットを探って煙草を取り出す。
最初の一本を咥えると、後からやってくる岡本に箱ごと煙草を手渡す。
さらにその後ろを歩く愛人にも、『一本どうだ』とすすめる。


 「今の時代は、どこもかしこも禁煙だ。
 健康増進法とやらの施行で、煙草吸いどもは、肩身が狭い。
 煙草の長さの半分以上が、税金なんだぜ。
 俺たちは優良納税者だというのに、いまじゃ公共の建物のすべてが禁煙だ。
 世も末だな。有料納税者を冷遇するようでは・・・・」


 「俺のところなんか女房と娘に嫌われて、家の中じゃ全く吸う事ができねぇ。
 前は辛うじて、換気扇の下で吸えたんだが、この頃じゃ、それも駄目だ。
 家の外の追いだされて、ベランダで星空を見ながら煙草を吸うんだぜ。
 女には、逆立ちをしても勝てねぇ時代だな・・・・
 で、どうした?。響と、その後は」


 「うん・・・何の話だ?」


 「仮の話だ。たわごとだと思って聞いてくれ。
 お前さんの響と、俺ん所の英治が恋仲になる可能性は、まずないと思うが
 それにしても、お前は余計なことに首を突っ込み過ぎる。
 響の事が、心配で朝早くから、あんな話を持ち込んできたんだろう。
 いま時の教育ママでもあるまいし、そこまで気を使うこともないだろう。
 それともなにか・・・・自分の娘だと思うと、心配で放っておけないのか。
 だがな。自分の子供でも娘となると、なにかにつけて面倒ぜ。
 男親の言うことなんか絶対に聞かねえし、年頃になったら寄りつきもしねぇ。
 冷たい目で俺を見るから最悪だ。娘なんか作るんじゃなかったぜ」


 「響とはまだ、親子と名乗りあったわけじゃねぇ・・・・。
 そのうちチャンスが来れば、俺が父親だと告白してもいいと考えているが、
 内緒のままでも、いいかなぁなんて、弱気にもなっている」


 
 「なんだ、まだ話して無いのか。じれってぇなぁ・・・・
 清子とは、その辺りの確認をしたんだろう。
 可能性は有ると思っていたが、やっぱり響は、トシの娘だったんだ。
 だがな。そうなると問題は、この先にある。
 英治は破門扱いにしたが、どう見ても、響が相手じゃ釣り合わねぇ。
 英治は、根は真面目で、一生懸命な性格の持つ主なんだが、
 機転は利かないし、知恵も足りねぇ。
 素人を相手に喧嘩などするなと、あれほど注意をしておいたのに、
 いざとなると、やっぱりブレーキが効かなくて暴走をする。
 女の前で良い恰好を見せようなどと、いきがる男は、俺たちの世界では、
 長生きすることはできねぇ。
 単細胞野郎は、任侠の世界では使い物にならないし、最初から資格がねぇ。
 早いうちに秋田へ帰して、畑仕事でもさせた方が無難だ。
 いつまでも任侠の世界に居たんじゃ、鉄砲玉に使われて終わるのがおちだ。
 頭の悪い奴と、融通のきかない奴は、任侠の世界でもおちこぼれ組だ。
 あいつへのせめてもの思いやりが、組からの破門だ」


 「お前さんからの、親心か。破門することが・・・」

 
 「何とでもいえ。先の事なんか、誰にも分らねぇ。
 若いもんが早めに死なないように、早めに破門にするのも、親の仕事だ。
 親ってのは、どんなに嫌われても、必要な時には大ナタをふるう。
 それを実感する日が、お前さんにも、そのうちきっとやってくる。
 そん時になれば、俺の言っていることが良くわかる。
 おう、待たせたな。家まで送ってやるから、帰ろうぜ。
 せっかく久しぶりにお前さんの顔を見られたと言うのに、こんな展開じゃ、
 しっぽりと濡れる気分にもならねえ。
 今日は、エッチをあきらめて、とっとと家へ帰ろうぜ。
 さぁ帰ろう、帰ろう。家へ帰ろう」


 岡本が愛人の腰を抱いて、「じゃあな」と言って去っていく。
あとに残された俊彦が (来るのかなぁ・・・・そんな時が、俺にも)と
ゆっくりと煙草の煙を吐きあげる。
英治が入院している病室をもう一度見上げてから、
(そうだよな。先の事は誰にも分らない。俺に出来ることを響に与えてやれば
それだけで、いいはずだ。あとは運を天に任せよう・・・・
ぽつりと呟きながら、俊彦が駐車場に向かって歩いて行く。