連載小説「六連星(むつらぼし)」第26話~30話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第30話
「響が生まれた頃」
つづらの道を4回ほど切り返し、登っていくと、ようやく杉の巨木が終る。
杉の木立を抜けると、上空が急に明るくなる。
水道山公園の頂上までまでつづく斜面一帯が、背丈の低い落葉樹に
かわるためだ。
北向きの斜面一帯では、管理の成果から最近になって、
紫色のカタクリの花が復活をした。
陽の当らない北側の寒い斜面を好むカタクリの花は、3月の半ばから
紫色の可憐な花を、咲かせはじめる。
「あら、もう、カタクリの花が咲きはじめています。
絶滅したとばかり思っていたけど、いっぱい咲いていますねぇ。
繊細で気難しい花だから、ここまで復活させるのは大変だったと思います。
やっぱり、この花は綺麗ですねぇ。
カールした乙女の髪が、風になびいているように見えます。
可愛いし、大好きな花のひとつです」
「芸者になりたてのころの、君のようだ。
健気で清楚で、それでいて少し妖艶で、まぶしいほど着物が似合っていた。
そんな君を初めて見たとき、俺は、心の底から、美しい女性だと思った」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第26話~30話 作家名:落合順平