ニューヨークトリップ 1
「虹花(にか)さんて、歯医者で働いてるんですよね?ちょっと俺の歯見てもらえませんか?」
「どうしたの?」
「実は、こっちに来る前の日に顔面思いっきり殴られて、歯が折れたんです。」
「…え?」
なんか、ぶっとんでんなー、この人。
「あ、そうだ!俺、三線で弾き語りやってて、CDあるんで聞いて下さい。」
と、手作りのCDを渡される。
油性マジックで書いてあるのは、タイトルだろうか?自分のアーティスト名だろうか?
男の字って感じ。
「ありがとう。」
目玉焼きにベーコン、野菜炒め、スープくらいしか作れないけど、短期だし何とかなるか。
「ようさんとは、あんま関わらん方がええで。」
デスクで勉強をするかよちゃんには、そう言われたから警戒してしまったが、良い人そうだけどな。
「なんか、あの人変やろって、かずちゃんとも話してん。」
まぁ、少し独特だけどね。
今日は、本来の目的であるダンススクールに申し込みに行こう。
ニューヨークの地下鉄は番号と色分けされてて、分かりやすい。
「赤の1番の地下鉄に乗ったら、一本でタイムズスクエアまで行けるで。」
かよちゃんに道を聞いた。
地下鉄は昼間でも少し暗いし、当たり前だけど、周りは外人さんばっかりだ。
私は浮いてないだろうか?1人でキョロキョロ周りを見渡す。
タイムズスクエアまで来ると、かなり混雑している。
人通りも激しい。しっかりしないと人の波に流されてしまいそう。
出口はどこだろう。
迷いながら、地図をしきりに確認して、タイムズスクエアまで来ると、TVや映画でよく見る様な景色だ。
すごい!本当にニューヨークに居るんだ!
周りは知ってる人が誰も居ない!
誰も頼れないんだ!
サイレンの音と英語が入り混じる中で、興奮を抑えきれない。
『I'm in NY!!』
心の中でそう叫ぶ。
私は今、ニューヨークのタイムズスクエアを歩いている。
4月とはいえ肌寒く、10年近く着て古びれたカーキ色のモッズコートに、スニーカーに背中には大きなリュック。
リュックの中には、ダンス用のTシャツ、スウェット、スニーカー、タオルが入っているので、パンパンになっている。
期待を膨らませながらダンススクールを探す。
騒がしい道中には、昼間でもギラギラとネオンが輝く。
あのお店は何だろう。このカフェお洒落。お土産買うならここかな。
初めて目にする物ばかりで、興奮冷め止まらない。
そうこうしているうちに、スクールの看板を見つけた!
階段を上がり、受付で手続きをするが、つたない片言の英語で四苦八苦する。
壁に飾られたダンサーの写真、ガラス越しのレッスン風景に釘付けになる。
ダンスも沢山のジャンルがあり、バレエもやっていた。
スタジオどこだろう。JAZZはDスタジオって言ったかな。
誰かに聞きたいが、ひたすら日本人を探す。
日本人ぽい女の子に話しかけてみる。
「Are you japanese?」
しかし返って来た答えは予期せぬ「No!」
見た目が日本人ぽくても、違うものなのね。
そして、始まったクラスは、思いっきりヒップホップ。
それもそれで楽しめたが、クラスを間違えたらしい。
1時間ずれているというサマータイムを知らなかった。
そのまま1レッスンだけ受けて帰る。
とにかく早く服が欲しかった。
みんなオシャレなのに私は捨てても良いような服しか持って来ていない。
ニューヨークで、ショッピングするのも楽しみの一つだ。
FOREVER21…ここか。
値札を見れば…安い!
しかもカラフルで斬新なデザインだったり、かわいい!!
また1人で興奮し、あれもこれもとかなり悩む。
小物もかなり安いので、お土産用にグロスやポーチを買う。
女子は、日本未上陸のお店と言うと一気にレア感が増す。
TシャツワンピにTシャツ、スカート、とりあえず、このくらいにしておこう。
H&Mでは、シンプルな服が多かったので、アクセサリーだけ購入。
日本では1人で飲食店に入る勇気すら無かったが、ここでは1人なんだ。
ファーストフード店に入ってみる。
そこでは、店員が笑顔で話しかけてくる。
「どこから来たの?」
「日本です。1人で来ました。」
「旅を楽しんでね!」
スーパーの店員とは違い、気さくな人も居るんだな。
暗くなればより一層ネオンはギラギラと輝き出す。
暗くなったら出歩かないようにと、寮の人に言われてたのを思い出し、足早に駅まで急ぐ。
「今日な、りょうくんがフリマでスカート買ってくれてん。めっちゃ優しいわ。」
黒地に白の水玉の膝丈のスカート
は、かよちゃんによく似合ってる。
私は、ダンススクールに行って、レッスンを間違えた事、サマータイムを知らなかった事を話した。
かよちゃんは、23歳て事は、大学卒業後、CAになって、一年で辞めて来ていて、留学費用はかなりかかるはずだがどうしたのかと聞くと、
「貯めた貯金とパパが出してくれてん。」
お父さんかと思ったら、
「そっちのパパ違うで!」
田舎者の私には一瞬分からなかったが、かよちゃんは、大学時代にキャバクラでバイトをしていたそうだ。
周りの友達もみんなやっていたそうだ。
関西の女子大生って、雑誌で見ると、何であんなにお金持ちなん?と思うくらいブランドで固めて、車はBMWやベンツだったりするが、そういう事なんだろうか。
「かずちゃんもそうやで!」
えっ?とまた驚いたが、かずやくんの留学費用は、ホストで貯めたお金と、ママが出してくれたそうだ。
パイロットなんて、元々のおぼっちゃまがやるのかと思ったけど。
いや、かずやくんのお父さんはパイロットだから、お金持ちだろう。
「明日、日曜日やんか、かずちゃんと教会でゴスペル聞きに行くんやけど、よかったら虹花ちゃんも行く?」
「行きたい!」
予定外の出来事にわくわくする。
ハーレムをもう少し上がって歩いて行った所に教会がある。
黒人が多い。
教会の前には列が出来て、並んでいる。
「虹花さんて、僕の友達にめっちゃ似とるけん!なぁ、ホンマはさやかなんやろ~?」
かずやくんは、福岡出身で、博多弁は、~けん、~ばい、~っちゃ、と話すのがかなり新鮮だった。
日本で普通に生活していたら、そんな地方の友達なんて出来ないだろう。
本当に、~ばい、なんて話し方するんだ~!何もかも驚きの連続だ。
かずやくんとかよちゃんは、年も近く、気が合うようで、キャッキャとよく話した。
「CAごっこしようや!」
と、言ったかと思えば、2人で突然中国語で話し出す。
英語も中国語も出来るんだ。すごいな。
黒人の生で聞くゴスペルは、映像で見るのとはわけが違う。
迫力があり、教会中に響き渡る。
今、この場所で、知り合ったばかりの2人と一緒にゴスペル聞いてるという状況がなんだか不思議でしょうがない。
これは夢なんだろうかと思うくらい。
「な~、これからどこ行く?」
2人について行くと、知らない場所に連れて行ってくれる。
1人だと行かないような場所にも行ける。
ニューヨークの街並みを散策したり、ロックフェラーセンターに行って、撮影ごっこしたり。
作品名:ニューヨークトリップ 1 作家名:虹花