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悠里17歳

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 今日は試合稽古なので、早い時間に終わる。晴乃が篠原君を呼び出した時間まで十分に暇がある。私が今日の試合に勝てば、彼は時間まで懺悔の素振りをするだろう、そう踏んでいた。私が呼び出さなくても道場で二人っきりになるチャンスを自分優位に持っていくために自分の力で用意したつもりだった。 
「倉泉……」
 防具を片付けていると私の前に篠原君が少し真面目な顔でやって来た。いつもみたいに笑っていない。
「稽古終わったら時間、あるか?」
「えっ?」篠原君の思わぬ誘いに私は一瞬戸惑った。篠原君から呼び出すって――、ちょっと意外だ。
「別に、いいよ。終わったらあたし、ここで素振りしとうから」
目は合わすことができなかったけど、何とか悟られずにやり過ごしたようだ。ここは想定外の展開だけど、どっちにしろ二人になるチャンスはあるということだ。

   * * *

 鎮まり帰った道場、私は誰もいなくなった道場に残り彼を待つまでの間、素振りをすることにした。
 戸を開けて、緑緑と葉を付けた桜の木を見ながら、素振り用の竹刀に「守破離」の鍔を着け、前に垂らした竹刀を見つめて大きく深呼吸。試合の時よりも緊張している自分がいる。黙っていると心音が聞こえそうだ。落ち着け、悠里。私は戸の外にある桜の木に視線を移した。

「倉泉……」
「……来たぁ」私は声の主を背中にして一人で呟いた。この声は先ほどの対戦相手、剣道部主将篠原健太君だ。筋書きは少し違ったけど晴乃との約束、今日こそは伝える。私は心に決めていた。
「なあに?」
 振り返り、表情を抑えて努めて冷静に返事をする私。稽古の時よりも笑顔のない彼の顔を見た。
「参りました!」
「いやいや、そ、そんなぁ」
 いきなり土下座をする篠原君に驚いて私もその場にしゃがみこんだ。他の部員の前で土下座はできなくて私を呼び出したのだろうか。だけど、けじめをつけようとする硬派な性格は個人的に嫌いじゃない。
「上段は向いてないんかなぁ、オレ」
首をかしげる篠原君。彼の出鼻をくじくために臨んだ試合ではないのに、予想以上にへこませてしまったみたい。
「いや、今回は研究したからであって……」そこはフォローしなきゃ。個人的には篠原君は上段であって欲しい「だけど今日の篠原君、何か迷ってた」
「え……?」頭をあげた篠原君「そんな事分かるのか?」
「分かる、というのではなく正しくは感じた、かなあ」
 私は思っていた事をストレートに伝えた。確かに今日の篠原君は迷っていた。晴乃のことが頭の片隅にあったのだろう。とにかく今回は勝つには勝ったけど、ややもすれば打たれたかもしれない場面がいくつかあった。
 今日の試合をメンタル面で総括すると、私は文化祭のイベントを終えて気持ち的に落ち着いている。そして試合の本番、早々に一本を取ったので篠原君はかなり焦ったと思う、正直二本目は打ち急ぎすぎで一撃のあと、完全に体が死んでいた。心理戦での勝因はこんな感じだ。
「うーん、そこまで攻略されたら俺は倉泉には勝てへんわ」
 篠原君は足を崩して完全に参ったをした。
「あたしだっていろいろ、あるねん。あたしの中で越えなあかん壁ってのが」
「壁?ってか。まだ越えなあかん壁があるの?」
 近付いて来る篠原君に思わず後ずさりして後ろを向いてしまう、今越えなければいけない相手は彼自身なのに絶好のチャンスに撃ち込めなかった。試合の時に出てきた勝ち気はどこへいったのやらだ。
「篠原君」
「倉泉」
 振り返ると同時にお互いの目が合い名前を呼んだ。剣道なら完全な同体と言えるくらいピッタリの間で。
「篠原君から、言いなよ」
「そうか?」
 しまった――。主導権を譲ってしまった。肝心な時にいつもの引っ込み思案が出てしまった。
「あのな、倉泉。呼び出したのはな……」篠原君は竹刀を左手に持って立ち上がった「去年の夏合宿こと、ハッキリさせたいねん」
「それ、こっちのセリフじゃ……」と思ったけど口には出せなかった。私と同じで篠原君もこんだけ長いこと引っ張り続けてヤキモキしていたんだ。
「うん――」
「俺、倉泉のライブ見てわかったんや。正直な気持ちを持たなあかんって」
「どういうこと?」
 自分が勢いで決行した文化祭ゲリラライブ。今篠原君が私を呼び出したことに何の繋がりがあるのかわからない。
「倉泉、俺、ケジメつけるわ。呼び出したのはそのためやねん。去年の夏に告白したけど、俺な、お前のこと……」
来た!この瞬間。構えてはいたけどドキドキする。私は篠原君の目を見たまま唾を飲み込んだ。
「あ、あっ……」
言葉にならない詰まった声が出るだけで、何も言えない。自分の中で時間が止まる。
「お前のこと、……じゃなくて、ホンマに好きなんはルノの事やねん」
「へっ……?」
 ドキドキしている鼓動、というよりも道場が一瞬だけ完全に時間が止まったような気がした。
「え、えーーっ!」

 私の叫び声で止まった時間が動き出す。鍛えているからとはいえ、無意識に出る声量が大きいので恥ずかしい。
「今まで、ごめん!」篠原君はその場に正座するもんだからビックリして私もしゃがんで目の高さを合わせた。
「ちょっ、ちょっとぉ?」
「俺よ、今日ルノに呼び出されてるねん。それが何を意味するか分かるか?」
 私は知らないフリをして小さく頷いた。晴乃が今から篠原君に告白するなんて言える筈がない。
「男ってのは欲しいものは自分でモノにするもんやねん。サムライは『受け』では成功しない。今まで結果が怖くて言えない自分に打ち克たねばならんのだ。それを教えてくれた倉泉、ホンマに感謝してる――」
 確かに私はライブで

   欲しいものがあるのなら
   自分の手でつかめばいい
   与えられるものよりも
   勝ち得たものの方がいい
   ずっといい  
   大切なはずよ 

と唄った。ということは私の言葉で感化されたってこと?
「ホンマにゴメン!今まで気に留めさせといて」
 訳もわからず私は両手を取られ深々と頭を下げられた。それはこっちのセリフだと思うんだけど。
「倉泉はそんだけ強いねんから、俺よりもいい人現れるよ!」
 激励のつもりだろうけど、最後の一言は余計だよ。
 何が何だかわからずに私は道場から出ていく篠原君の背中を見届けた。一応作戦通りにはいかなかったけど、自分のけじめはついたのか、気持ちは複雑ながらもスッキリしている。戸の外から射す西陽に当たってその姿がまぶしい。これから「勝負」に行く者のそれだ。結果はわかってるのでビックリするだろうな、晴乃。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔