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悠里17歳

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   始め!

 お互いに気合いの一声を上げると、篠原君は竹刀を真っ直ぐ上に上げた。
「来たぞ、これだ」
 上段構えは「火の構え」、防御は無視して攻撃一辺倒だ。初めて見た時はその威圧感と構えの美しさに動きを奪われたが、私は上段に勝つために、考えられるだけの本を読み、わざわざアメリカに電話をしてエディや篤信兄ちゃんに質問をし、資料としてあるビデオを見て自分なりの攻め方を考えた。
「相手の間には絶対に合わせない」  
それが私の答えだ。一撃の勝負では分が悪い、そう考えながら篠原君の様子をうかがう。私は天に向けた竹刀の先を見て、アメリカで見た父の上段構えをダブらせた。
 私は剣先で篠原君の左小手を捉え続けて右へ回る。少しでも引いたら一撃でアウトだ。

   アァーーーーーーッッ!

 声で気を高めながら相手の変化を待った。すると、来た。というより、見えた。高々と上がった竹刀の先が私の面に目掛けて矢のようなスピードで振り降りて来た!
「そこで引くな、悠里!」
そこで私は寸前でその竹刀を払い、篠原君の懐に飛び込んでメンを打って体当たりする。すると予想通り、近間を嫌って篠原君が後ずさりすると、ちょうど私の間になった。

   メェェェーーーーーン!

 完璧に篠原君のメンを打ち抜いた。線の端まで走り抜けて残心。視界に赤い旗が見えた。

   メンあり

 旗の向こうでこちらを向けずに竹刀を垂らす篠原君の姿が目に入った。与えたダメージは予想以上に手応えがあったようだ。

   二本目!

 開始線に戻り試合再開、篠原君は再び竹刀を天に上げ、気合いの大声を張り上げた。
「もう一本だ!」
私だって負けられない。彼に負けじと腹の底から大声を張り上げた。
 上段から降り下ろされる強いメンを間合いでかわしつつ、反撃のチャンスを待った。決めるなら一度だけ、決死の作戦でもう一本を取るのだ。 
「見えたッ!」
 メンを打とうと篠原君の足が浮いた一瞬、私は彼の胸元目掛けてまっすぐツキを放った。竹刀は届かなかったが、滅多に出さない突き技に驚いた篠原君は一瞬後ずさりし、剣先が迷ったのを見て勝負は決まった。作戦通り、怯んだ彼の体は一番打たれてはいけない所を私にさらけ出した。

   メエェェェーーーー!

 私は自分の間になったところで迷いなく一番の得意を放ち、さらに声を張り上げた。 

   勝負あり!

 高々と上がった赤い旗。私は高ぶる気持ちを残心で抑えつつ、竹刀の先を篠原君に向けて離さなかった。
 自分の中で何かを越えた。それは嬉しいという言葉だけでは表現できるようなものではなかった。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔