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悠里17歳

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 最後は個人的に今までの感謝を込めてギミックのカバーでしめると決めていた。私はステージの左脇にいる郁さんとMMの方を向いて、イントロのリフを少しだけ鳴らしてみせた。
 ドラムから始まる曲なのに後ろから予定にないベース音が続く。ここはアドリブを入れるところでないと思った私はビックリして後ろを向いた。
「誰……?」
振り返ると明らかに晴乃と違う人がベースを弾いている。顔は……、うつむいていてわからないけど同じ制服を着ている。ステージが眩しくてこの距離では個人の判断ができない。
 私がベースを弾く彼女に近づこうとしたその瞬間、晴乃にはまだ出来ないレベルの高速ベースが見事なラインを刻み出すと、会場はさらに大騒ぎを始めた。
「もしや……」
聞いたことのあるサウンド、冷静になってベーシストの容姿全体を見ると、彼女……じゃない。この人は?

「お兄ちゃん!?」
 ここがステージの上であるのも忘れ大声で叫んでしまった。だってそうでしょ?こんなところで、そしてそんなカッコで。
「よっ」
 顔を上げると疑問は確信になった。ステージに立っている女子高生「風」のベーシストは私の兄にして若者の間で少しは名の知れたバンド・NAUGHTのボーカル兼ギター、倉泉陽人ことGreg Kuraizumiであることがわかると会場からドッと笑う声と大歓声が聞こえた。
「『よっ』ちゃうよ。何で?」
「心配やから見に来てん」 
 お兄ちゃんは慌てる私を無視してステージ前に立つと観客席がにわかに騒ぎ始めた。  
「どーも、妹がお世話になってます」
沸き起こる大歓声。さすがにステージでの観客の煽り方を知っている。
「こいつね、俺も高校ん時出来んかったことやりよるねん。それが悔しくて来ました」

「後輩の皆さんに一曲、演奏したいと思います」
 会場が騒いでいるのも気に止めずお兄ちゃんがベースでイントロを弾き始めると騒ぎは一気に収まり歓声に変わる。サラのドラム、そして晴乃もいつのまにか自分のギターを持って、ギミックの曲を演奏し出した。長いイントロが流れ出すとからだは条件反射的に何をするのかわかっているうえ、お兄ちゃんの厳しい目線が私にそれを促す。
「歌うねんで、悠里が」
「わかっとうよ」
 何が何だかわからない、だけど今だからできることを思いきりできることは楽しい。単なる自己満足ではなく。少しでもそれが伝わればと思い私はマイクの前に立った。目の前に見える生徒たちは私が歌い出すのを待っている。それを感じることが出来る自分がとても幸せだ。
 それから私たちはお兄ちゃんのアシストもあってアンコールが続き、持ち歌を次々とマイクに向かって叫び続けた。何曲歌ったか、どこかで音を飛ばしたこととかそんな細かいことはどうでもよくなっていた。ただ、私たちはステージの上でその気持ちの良さに我を忘れて歌い続けた――。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔