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悠里17歳

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 実行委員や吹奏楽部の練習で忙しいサラと晴乃を置いて私は一人帰宅した。玄関の扉に鍵を差して勢いよくノブを引っ張ると扉はちょっとだけ浮いたかと思うと扉は開かなかった。
「あれれ」
 鍵をかけ忘れたかなと思い、もう一度鍵を回した。すると立て付けの悪い扉は私に「しっかりしろよ」と言わんばかりにギィと軋む音を立てて開いた。恥ずかしい話だけど鍵をかけ忘れることはよくある事なので、今日もまた忘れたかと改善されない戒めを自分に言い聞かせた。 
「ただいま――、ん?」
 玄関を見ると女子しかいない家にはあり得ない大きさの見覚えのある靴がある。鍵をかけ忘れたんじゃなかったんだ、誰かいるみたいだ。
「お兄ちゃん?」 
 自分の部屋の襖を開けた、すると長らく使われていない奥の机に座ってヘッドフォンを耳に当てたお兄ちゃんがPCを開けて何やら作業をしている。
「お、悠里。おかえり」
「あれ?帰ってきたん?」
 こないだまで家にいたような調子でいるから何だか調子が狂う。お姉ちゃんに続いて今度は東京からお兄ちゃんが帰ってきた。急に倉泉家が賑やかになっている。
「ああ、母さんが『ちょっと神戸まで帰って来てくれん』って言われて戻って来たんやけど」ヘッドフォンを外して机に置いた。
「何かあったん?母さん」
「いや、何もないよ。取り立てて東京からわざわざ呼ぶようなことは」
 お母さんは出張していて、神戸に帰って来るのは三日後と聞いている。
「あ、そう――」お兄ちゃんは何もなかったようにPCの画面に向き直った。以前はいつもの風景だったはずなのに、自分の部屋に誰かがいるとなぜだか落ち着かない。
「ああ、すまんすまん――」
 お兄ちゃんは頭を掻きながらPCの線を抜いて私のすぐ横に来た。
「どうしたん?いいよ、別に」
「着替えるんやろ?目、痛くないか?」
お兄ちゃんは自分の眼鏡の縁をツンツンした。
「あ、本当だ――」
 お兄ちゃんが神戸にいた頃は同じ部屋で生活をしていた。友達は「嫌じゃない?」と言うけど、それは中学一年の頃までだったし、文句を言える境遇でもなく、きょうだいなので私には抵抗がなかった。これが他人なら問題だろうけど、むしろお兄ちゃんの方が気を使ったのではないかと思う、最後の一年は遅くまで受験勉強してたし。
 未だに部屋の真ん中に仕切りのカーテンが残っていて、私は着替えを手に部屋の奥に入り長らく使ってなかったカーテンを閉じた。
「あのね、お兄ちゃん」
私は家着に着替えつつカーテン越しに呼ぶと返事が返ってくる。
「お姉ちゃんも今きーちゃん連れて帰国しとうんやで」
「うん、知ってた。先に西守先生ところ寄って来た。俺が呼ばれたんは姉ちゃん経由やからさ」
「そうやったんや」
ハンガーに掛けた制服を窓側のカーテンレールに引っ掛けた。
「文化祭、明日なんよ」
「ほう、とうとう本番か……」
コンタクトを外し、着替えを終えた私は仕切りのカーテンを開けた。
「明日は見に来てくれる?」
「ごめんなんやけど明日は仕事、あるねん」
「なーんだ、つまんないの」
 いつもと違う事をすると、いつも何かを忘れる。コンタクトを外してから眼鏡が無いのに気付いた。
「ところでお兄ちゃん、そっちに眼鏡なーい?」
「あ、これ?」
よく見たらお兄ちゃんは自分の眼鏡を置いて私のを掛けている。
「ちょっとぉ、それ悠里のやんか」
「いや、ここに置いてたからよぉ」お兄ちゃんは私に向かって笑いながら眼鏡を返すと立ち上がり、私の素通りして窓の前に立ち止まった。
「お兄ちゃん、何見とう?」
「――制服」
確かにカーテンレールに私がさっき脱いだ制服が掛かっていて、お兄ちゃんはじっと見たまま私に背を向けている。
「制服がどうかしたの?」
「うーん、悠里は俺より小さいなぁ」
「そうそう……って。えーっ、そんな趣味あんの?」
「あったら悪いか?」
全く動揺のない真顔で答えられた。
「あるとかないとかやなくて……、えーっ!」
 私の知る限りではお兄ちゃんの周囲に女性の影は確かになさそうだ、だけどそんな趣向があるのかと聞かれれば完全に否定するほど兄を知らない。何かあると考えたけど普段なら読める思考回路が落雷に遭ったみたいに止まってしまった。 
「あ、やべっ。これから約束あんねん、ごめんな」
「あ、ちょっとお兄ちゃん」
 固まってしまった私を尻目にお兄ちゃんはそう言って私の肩をポンと叩いて横をすり抜けて、あっというまに逃げるように出ていってしまった。
「今日泊まるから、ベッドのどっちか空けとってな」
 そう言い残して立て付けの悪い扉が閉まると外から階段を降りる音がカンカンと響いた。

「何か企んどうな、あやつ……」
 一人になると思考回路も回復した。こういう態度を取るときのお兄ちゃんは何かがあると思うのは経験と直感が教えてくれるのだが、明日の計画が気になってそれについて考えたり対処する余裕はなく、私はとりあえず使っていない二段ベッドの上段を整理することにした――。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔