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悠里17歳

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 バスが停車したので、もう一度窓の外を見ると高速道路を降りて信号待ちをしていた。目的地まではもうすぐだ。山がちな神戸の街並みとは全く違う、周囲は首が疲れるほど高いビルが林立していてここが東京のどこかがわからない。
「何か緊張するね」
次は晴乃が話を切り出した。普段は冷静な彼女であるが、確かに少しテンションが上がっている感じがある。
「そう?確かに東京って日本人で知らない人いないもんね」
「世界中の人もトーキョーって地名は知っとうと思うよ」
 確かにサラの言う通りかもしれない。神戸を知らない外国人は多いだろうけど東京を知らない外国人は確かにあまりいないかもしれない。私の中でも「東京」よりも「Tokyo」の方がしっくりくるイメージはある。 
「あたし、東京って初めてやねん」
「えー、意外ぃ……でもないか」
 私とサラは声を揃えて反応した。
 S'H'Yのまとめ役とも言える晴乃は代々神戸の育ちで、家は三世代住居だし親戚筋もみんな関西の出身である。実家が老舗の酒造会社で、長い休みを取れないので、日々の生活は恵まれている方だと思うけど、あまり遠くへ旅行した記憶は少ない。彼女の言うように神戸を離れたこともなければ帰る故郷がない。大柄な弟二人を飼い慣らす彼女は時には姉御肌の片鱗を見せるが、知らない分野については引っ込み思案なところがある。それでも生徒会の役員として、高校の吹奏楽部史上初の女子コントラバス担当として自分の殻を打ち破ろうと努力しているその姿勢は見習うべきところだ。

 陽が昇るのとリンクして、車内にも灯りがともった。外の景色を見ることを許されたと判断した私はカーテンを開けた。
「雨降っとうやん」
「ゲンナリぃ」
 サラと晴乃は窓の外に目を遣った。
「あたし傘忘れた。みんな持って来とう?」
「ったり前でしょ」
「昨日天気予報の話してたのは悠里よ」
笑ってごまかした。
 私の物忘れがひどいのは今に始まったことではない。
 マメにメモを取るのにメモをそのものを忘れたり、スタジオでの練習にギターを持ってきたかとサラに聞かれたこともあった。
「いつもの悠里やん。問題なし」
「ハイハイ、そうだろうと思ってちゃんとあなたの分も用意してますよ」
「いやぁ、かたじけのぉござる」
 サラは呆れ顔、晴乃は私をたしなめるようにデイパックから予備の傘を貸してくれた。この辺の力関係は姉キャラと妹キャラの典型だ。

 行動活発なサラ、冷静な晴乃、そしておっちょこちょいの私。三者三様のスリーピースで纏まりないように見えるけど、三者三様だから纏まっている。それはお互いがお互いを補えるからだ。三人よれば文殊の知恵と言うけれど、確かに私たちが一つになれば何でもできそう、そう思っていた。

 すっかり陽の上がった東京の街、私たちは流れ行く車の往来と場所を特定出来るような建物などを探した。進行方向のすぐ近く、近すぎて頂点が見えないほど高くそびえる二本のビルが建っている。
 新宿の東京都庁ビル、そう、目的地の近くだ。幕間は終わった、私たちの物語は舞台を東京に移し再び動き始める――。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔