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悠里17歳

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5 異郷育ちの兄



 稽古を終えたあと、私は篤信兄ちゃんの車でダウンタウンまで連れてってもらった。今日はお兄ちゃんは今日LAでライブをすることになっていて、たまたまダウンタウンに用事があった篤信兄ちゃんが足になってくれた。篤信兄ちゃんもお兄ちゃんと長く会ってなかったので久々に会いたかったと説明するように、本当は客として見に行きたかったのだが帰りの足がなく、まだ客の入っていないライブハウスへの陣中見舞いという形になった。
「篤兄、来てくれたんだ」
 ライブハウスの前でお兄ちゃんが一人出迎えてくれた。子供のような顔をして異郷での再会を喜ぶお兄ちゃん、見た目は気難しそうだけど、自然な表情はとっても優しい。
「陽人君、ひとまず大学卒業おめでとうやね」
「ああ、ありがとう。お陰で四年で出られました」
「あいたたた……」
言外に篤信兄ちゃんは一年留年していることを言っている。お兄ちゃんだから言える冗談、つまり愛情表現ってやつだ。女きょうだいしかいないお兄ちゃんにとって篤信兄ちゃんの存在は大きく、端から見れば兄弟のように見えなくもなくて義兄を本当に信頼しているのが顔に書いてある。
「こっちでも頑張っとうね?」
「違うよ、頑張ってないからここでやっとうんやんか」
「そうやった、頑張ってないんやった」
「間違えないでよ」
「ごめんごめん」
二人はお互いに指差しあって確認を取っていた。
 お兄ちゃんは「頑張らない」ことにこだわっている。必要以上に力を出さない、いつ何時でも調子を変えず常に自分を見失わないのが兄の持論だ。そんな兄の姿勢に救われたことがあって今の自分があると篤信兄ちゃんは言うがちょっと大袈裟じゃない? 
「おう、悠里」篤信兄ちゃんの後ろに立っている私にも気付き、兄妹だけどここは握手して挨拶する「ちょっとは逞しくなったか?」
得意気な顔で私の胸元を指差す。
「うん、かなりね!」
そう答えて私はお兄ちゃんの喉元を指し返した。
「上等、上等」
そう言いながら私の頭をポンポンと叩いた。いつまでも子供扱いして欲しくないな。
「ライブ、見るんでしょ?」
「うん……、と言いたいねんけど、今日は研究の関係で今からタウンに行かなあかんねん。その間悠里ちゃんここに置いてていい?」
「ああ、いいよ。おいで悠里」
 お兄ちゃんはちょっと残念そうな顔をしたあと私と一緒に四きょうだいの長兄を見送った。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔