悠里17歳
「あたし、見たことないよ。お父さんが剣道するの」
「意外だなあ。ダッドは『兄(スティーヴン)には勝ったことがない』って言ってたのにさ」
「悠里が剣道するのは血筋だとてっきり思ってた」
次の言葉が呪文にかかったように封じられた。
「どうしたの?悠里」
「え、ううん。何でもない」
口に続いて耳も封じられた。明らかに様子の変わった私を気遣って色々声を掛けてくれるのだが、何も対応できず最後には私の英語モードは停止し、聞こえなくなった。
長らく会っていない父、私が今合衆国に来ている事は直接言っていないが多分家族の誰かから聞いていると思う。会いたいのだが心の準備ができていないのが正直なところだ。そんな中で聞いた何気ない話。それは、私の知らない父の一面がここにあることを感じさせるには十分な気がした。