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悠里17歳

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 車はステファンの通うハイスクールに到着した。私の高校とは雰囲気の全然違う、むしろ大学のような解放感がある。駐車場もいっぱいあるし学校には塀がないし、制服もない。往来する人種もサイズも様々で、関係者でない私もまだ中学生のキムも何の違和感もなく出入りできる。いろんな意味で自由だ。
 ステファンは廊下に並んでいるロッカーで立ち止まると、何やらニコニコしながら私の顔を見ている。
「悠里、僕の自慢のシーンを見てくれないか?」
「なになに?」
 何だか分からないけど、面白いものを見せてくれるようだ。
「また『奇跡のリターン』?」半ば呆れ顔のキム、彼女は何度か見ているようのが分かる。
「まあまあ」
 ステファンはそう言いながら自分のロッカーからハンディカムを取りだし、空いた教室に私たち三人は一つの机を囲んだ。ステファンがテープを入れると、小さな画面にフィールドが写し出された。
「剣道の稽古はフットボールでは無駄じゃない。これを見たらわかるよ」
 相手チームのキックオフのシーン。フィールド自陣10ヤード中央、リターナーの位置にナンバー9のステファンがさっき車でキムがかぶっていたヘルメットで待ち構えている。
「見てなよ……」 
 相手キッカーが蹴り飛ばしたボールは大きな弧を描き、ステファンがボールをキャッチ。そして大きくライン際に走り出し相手タックルをすんでのところでスピン、さらに味方ブロックをうまく壁にして前進、一対一になったところで今度はカットバックで切り抜け、ボールをしっかり抱え込んだナンバー9はそのままエンドゾーンに到達したのだ。
「すごいじゃん、ステファン!」
 この中では決して大きくない方なのに大柄のディフェンスをキリキリ舞いにする。ルールをよく知らない私にもそれが凄いものであるのは十分にわかった。
「実はね、このプレーにも剣道の応用があったんだ」
「えーっ、どこどこ?あたしには全然わからなかったよ」
「結局は『間』というか『タイミング』なんだ。相手の動く瞬間を見極めるのは剣道と同じだだと思う」
 そう言ってタックルされる寸前でスピンしてディフェンスをかわしたシーンをコマ送りしてリプレイして見せた。 
「確かにそうだ。相手に思わせといて裏をかくのは常套手段よね」
 その次のカットバックを見ると、確かにステファンは相手ディフェンスに対して右に動くフリをして逆方向に体を動かせている。形は違えど剣道で相手の打ちを誘う時に使う方法と言えばその通りに感じる。
「使える技術は使えるところで使う。相手が知らないものなら尚更有効さ」
「確かに、そうだね」
「合衆国では剣道はあまり知られていない。悠里は剣道一筋だろうけど、色んなスポーツにトライすることも意味があると思うよ」
 良いと思うものは何でも取り込んで使えそうな分野には貪欲に応用する。お婆ちゃんの言う歴史の浅い風土だからこそ出てくる発想なのか伝統よりも機能を選ぶ。この国が年間にいくつもの部活を掛け持っても成功する人を多く輩出する意味がわかるような気がした。
「当たり前だけど、どのスポーツも僕は手を抜かない。それはすべてに影響する,もちろん勉強もだけど」
 キムの話ではステファンは勉強もそこそこできるようだ。彼の言葉に、アメリカ育ちの兄が「やるならとことんまでやれ」普段言うことの本当の意味が少しわかった。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔