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悠里17歳

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「悠里は車の免許、ないの?」
「持ってるわけないよ。日本じゃ18歳からだよ」
 高校生が車を運転しないのは日本では当たり前だけど、ここではそれが通用しない。ステファンは車で通学していて、免許を取ってから既にけっこうな距離を走っているみたいで運転が危なげない。
「じゃあ学校はどうやって行くの?」
「私は歩いて行ってるよ。遠いところの人は電車に乗るけど」
「電車って危なくない?」
 キムが後ろから心配そうに質問してきた。普通車の方が危ないと思うんだけど。
「何が?」 
「スリに遭ったり、トラブルに巻き込まれたり……ヤバい人ばっかじゃない?」
どうやらキムは公共の交通機関にはちょっとした危機感を持っているみたいだ。日本の社会ではあまり考えないことなので少しビックリした。
「ないよぉ、そんなの。たまーに痴漢に会うことはあるけど」
「ほら、やっぱりじゃん」
 安全な事を言うつもりだったのに違ったニュアンスで捉えられ、車内から笑い声が漏れた。
「ステファンも剣道するんだ」
 昨日の稽古で相手したことを思い出した。ただあの時は眼鏡をしてなかったので横文字の垂れネームが読めず、体が覚えている記憶に問いかけると合致する人物を教えてくれた。
「たまにだけどね。学校にはクラブはないし、悠里はどうなの?」
「あたしは学校の部活と、近所の道場にも稽古に行くよ。じゃあ学校では部活はどうしてるの?」
「学校ではこないだまでフットボールしてた」
こないだまで、ってことは今はしていないのかと思わせる言い方をするステファン。
「ステファンはランニングバックなんだ」
 後ろからチームのヘルメットをかぶったキムがニョキっと顔を出した。どうりで筋肉の付きかたが剣道とは少し違うわけだ。
「今度は野球のトライアウトを受けるんだ」
「トライアウト?じゃあステファンは何部なの?」
 ステファンの説明では、どうやらアメリカの高校では部活は年間で夏、冬、春と大きく3つに分けられ、季節毎に異なった部活をする。人気の高いクラブはトライアウトという試験のような審査をパスしなければならない。中でも野球やフットボールは倍率が高く、選ばれるだけでも光栄なことだと言いたいようだが、私にはその価値が分からず彼を少し残念がらせてしまったようだ。
「へえ、でも一年で色んな部活をするというのは何か不思議」
 合衆国ではいろんなスポーツをやってみて他のスポーツにも応用し、新しいものを見いだす。日本では一筋に極める傾向がある。言われて見ればアメリカのスポーツマンは何をしてもできそうなイメージはある。一筋に極めんとする日本のそれはもちろん、どっちももっと先にあるその道の頂点を目指す点では間違いじゃない。スポーツの取り組みひとつでも価値観の違いがあっておもしろい。
「じゃあ悠里は年中剣道してるんだ?」
「そうだよ、運動はね。それ以外にはバンド組んで音楽してるけど」
「へぇ、グレッグと一緒じゃん」
「あたし、NAUGHTのCD持ってるよ」
 ステファンはキムに促されてカーステレオの曲を変えた。すると日本では聞き慣れた、がなりたてるような激しい音と兄の声がスピーカーから聞こえてきた。学校でも自分の従兄が音楽活動をしているのは自慢のようだ。
「悠里がやってるのもこんな音楽?」
「ここまでじゃないけど、近いかな。教えてくれたのがお兄ちゃんだから」
「へえ、聞いてみたいな。悠里が演奏しているの」
 キムが私にリクエストするけど、残念ながら剣道の防具を持ってくるのが精一杯でギターを持ってくる余裕はなかった。その上他人のものを借りるにも、左利きの人がそうタイムリーにいるわけでもない。
「また、今度ね。テープに録ったら送ってあげるよ」
と言ってその場を取り繕いつつ、ステレオの伴奏に合わせて一曲歌ってみせた。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔