悠里17歳
4 ステファンとキンバリー
アメリカでは甥の聖郷の部屋で寝泊まりさせてもらっている。アメリカでは子供と川の字になって添い寝する習慣はないようで、聖郷は三歳にして一人部屋で寝起きする。この時期きょうだいと川の字になって一緒に寝ていた私は、彼が寂しくならないのかとお姉ちゃんに聞くと、
「私も陽人が生まれる前はそうやったよ」
アメリカ育ちのお姉ちゃんはさらっと答える。初めから徹底していると案外ぐずらないようで、聖郷本人は昨夜
「きーちゃん、ねんねする」
と言って一人で二階に上がり自分のベッドに入ると、それから電池の切れたオモチャ見たいに寝たまんまだ――。
ポカポカした気持ちのいい気温の春の朝、外から車のエンジンが止まる音がした。二階の窓から外を見ると、運転席と助手席からそれぞれ同じ髪の色をした少年と少女が降りてきてしばらくすると玄関のチャイムが鳴った。裸眼なので誰かまで判断できなかったけど、
「悠里、ステファンたちが来たよ」
下からお姉ちゃんが私を呼ぶ声で、私は今日の約束を思い出した。
「はーい、今降りまーす」
まだ気持ちよく寝息をたてている聖郷のほっぺをつついて元気よく階段を降りた。
「やぁ、悠里」
「おはよう、ステファン、キム」
私を迎えに来てくれた二人に握手をして挨拶をした。
ステファン(Stephen D.Kuraizumi)とキンバリー(Kimberly A.Kuraizumi)は叔父のエディとドイツ系アメリカ人の義叔母モニカ・ハウプトマン(Monika Hauptman)の子供たちで、見た目はほとんどヨーロッパ系の白人だ。髪はブロンドに近く、目の色もグレーに近い。四分の一が日本人の彼ら兄妹と四分の一がアメリカ人の私とは見た目が全然違うので、いとこどうしにはとても見えない。兄のステファンは、背は私より高く均整の取れた体つきで、同い年だけど学年でいうと私より一年下の彼は彼なりにこの国を外国から来た親戚に紹介したいようで、同世代のアメリカ人が行くようなところに連れてってくれる。自分のルーツ探しとはちょっと脱線するかもだけど、彼のおもてなしは目一杯あやかりたい。
彼より3つ下の妹のキンバリーは中学生で、彼女もまた私より背が高く、ほっそりとして可愛らしい。兄の企画が面白そうで付いてきたと笑って説明した。その辺は私とお兄ちゃんとの間柄に似ている。
「さあ、行くよ。乗って!」
私はステファンに促されて助手席に乗り込んだ。ここはアメリカ、助手席といっても右側の座席なのでものすごく違和感がある。日本では運転席の位置だ。篤信兄ちゃんの車じゃここは聖郷の指定席で、思えばこの位置に座るのは初めてだ。
「さ、出発だ」
ステファンは勢いよくアクセルを踏み込んだ。16歳で運転免許を持っている、これにも驚きだ。