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悠里17歳

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3 異郷の日本人



 次の日、私は篤信兄ちゃんの運転する車に乗って二人で私の祖母 ブリアナ・オコナー(Brianna O'conner )が住む街に向かった。お姉ちゃんと聖郷は予定があるとの事で、二人で行くことになった。篤信兄ちゃんもよく知っている間柄なので気を使わなくてもいいよと言われ、私もその言葉をそのまま受け取った。
 お姉ちゃん家族の住む街(トーランス)からは車で約30分。南北に走る高速を北へ上ったところの、ガーデナという日系人が多い地区にある。3月のカリフォルニアは日本よりポカポカしていて三寒四温と呼ばれるような極端にメリハリの聞いた寒暖差がない。私は日本から用意してきた上着を一枚脱いだ。
「アメリカって温いんやね?」
助手席のヘッドレストを後ろから抱いて、運転席の篤信兄ちゃんに問いかける。ちなみに助手席は聖郷の指定席だ、立派なチャイルドシートがセットされている。
「そやね。でも夜は寒いから注意しなよ」
 この辺の気候は年中温暖であるが、湿度が低い分一日の寒暖差はけっこう激しい。夏でも夜は上着がいるくらい冷え込む日だってある。ここでの夏を経験したことは無いけれど、篤信兄ちゃんの話では日本のように「厳しい」季節はないみたいで、住むにはとても環境のいい場所であることがわかる。
「住むには最高の気候と思う。だけど、気候が良すぎて日々の生活に工夫が生まれにくい。ものは考えようさ。厳しい四季があるからこそ工夫があるし、その移り変わりを美しいものとして感じることができる――、と思わないかい?」
 それは暗に私たちの故郷を指していることがわかる。日本も様々な地方があるが、神戸含め基本的に季節の移り変わりは激しい。春には桜が咲き、夏には蝉が鳴き、秋には山が色を紅く染め、冬には山に雪が降る。確かにここと比べて季節のバリエーションは多い。そんな中で季節を大事にした日本独特の文化があって、それは衣食住に反映されている。
「どちらにも一長一短がある。だからこそ世界ってのは面白いんじゃない?」
 篤信兄ちゃん今はアメリカの大学で研究を続けているけど、日本の大学を卒業している。勉学では神童とまで言われた人でも、大学生活に躓いて一年留年している。それからは立ち直り、医師として現場に出たが、新しい研究を求めて家族を連れてここへ渡ってきた。アメリカ育ちの姉の薦めもあったけど結局は自分で自分の道を選んだ。
「医者は人の役に立てるけど、僕はもっと多くの人、日本だけでなく、世界の役に立ちたい。もちろん、日本人としてね」
 篤信兄ちゃんの掲げる理想は素晴らしい、そして国を離れていても日本人のプライドを捨てていない。その考えは私の理想でもあり、目標でもある。思えば姉の慕う義兄の背中が私に教えてくれたのかもしれない。
「さ、着いたよ」
 私たちは車を降りた。日系人が多いといっても街並みはアメリカのそれだ。どこも似たような街並みなので、以前ここへ来た時の記憶が甦る感じがない。そんな中に一軒、瓦葺きのどう見ても日本家屋がある、それは私の記憶の深い部分に到達するには十分だった。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔