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悠里17歳

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 私の兄、倉泉陽人は五歳年上の22歳。きょうだいの中では唯一のアメリカ生まれで、現地名はグレッグ。こないだ東京の大学を卒業したばかりだ。在学中に現在のメンバーに固定されたバンドNAUGHTのフロントを努めていて、Greg Kuraizumiとして頻繁ではないけれどテレビやラジオなどのメディアでも見られるような存在で、その筋では有名な人だ。うちの高校でも音楽に興味がない人でも卒業生として知られている。
 一同はシアトルからサンディエゴまでの西海岸南北四ヵ所で現地のバンドと共にライブをする予定でアメリカに向かっている。本当はメンバーやスタッフと一緒に行く予定だったのだが私がアメリカに行く事になり、お姉ちゃんからのお願いもあって行きの飛行機は一緒にしてもらった。
 そんな一応は「芸能人」の範疇に入るお兄ちゃん、その上画面を通じて兄を知る人は、ギターを叩き壊したり、ステージで暴れまわったり、とにかくとんがった人に見られがちだけど、普段の姿は目立つような存在でもなく、華奢な風体でギターよりピアノが似合う、きょうだい構成も重なってちょっと女子的な一面も見られるような優しいお兄ちゃんで、道で声を掛けられることもあまりない。
 実際に活動している音楽活動だって
「行き詰まったらちゃんとしたトコに就職するよ」
と言った調子でやる気の無さそうな事を言ってるけど、私の知るお兄ちゃんはこんな時が一番調子がいい。言葉通り実際にやりたいことを好きなようにやっている感じで音楽を「職業」とすることについてはあまりこだわりはないみたいだ。
 
「お兄ちゃんってば……」
 助けを求めて兄の肩を軽く揺さぶってみるけど反応がない。期待と不安が入り交じった世界に向けて飛行機は飛び続ける。私は一人、今までの自分の先にあるこれからの自分を想像しながら、いつのまにか私も眠りについていた――。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔