悠里17歳
姉は11歳年上、兄は5歳年上だ。年齢は離れているが同じ両親との間の子で、離れて住んでいるが今のところはきょうだい仲良くしていると思う。末っ子の私はきょうだいに守られて、既に拓かれた道を走るだけで良かった。反面、自己分析と判断が下手なのも末っ子だ。母はここが言いたかったんだと思う。
姉は家庭の事情で四年制の大学に進学せずに自らの意思を押し通して短大に進学したし、兄も東京という街にこだわりは全くないけれど、自分を見つめるために高校を卒業後神戸を離れた。
どちらも18歳の春までには先を見た自分の生き方を自分で決めている。それは私から見れば素晴らしい決断だと思う。今その年を迎えようとする自分にはできない事ができるのだから。
末っ子だから、さらにきょうだいとは年が離れている分、支援という点では大きな恩恵があるようにも見える。
しかし母の優しい目に、私にはもう一つの意味が見えた。
「お母さんはどうするの?悠里が高校出たら……」
末っ子には末っ子なりの悩みがある。上のきょうだい達はそれぞれ自分の意思を持って神戸から巣立って行った。残されたのはお母さんと私の二人だけだ。となると私がここを出ればお母さんは一人になってしまうではないか――。
「まさか、お母さんがいるから、って考えとう?」
私の動きが一瞬だけ止まったのを見て私の心配はまるで関係ないようにお母さんはクスクスと笑い出した。
「どうもせえへんよ。お兄ちゃんのいる東京に行ってもよし、アメリカへ留学してもよし、したい仕事があって就職してもお母さんは反対しない。ただ……」
「ただ?」
「それはあなたが決めなさい。悠里が決めた事には全力で支援する。金銭的な事は心配せんとって。それだけはお母さんが何とかする、『やらずの後悔』は一生モノよ」
「『やらずの後悔』ねぇ……」
お姉ちゃんにもよく同じことを言われた。お姉ちゃんもお母さんによく言われて来たのだろう。お母さんに言われるとお姉ちゃんにも言われたような気になって私は少し吹き出した。
お母さんは喋り続けるけど箸は止まらない。自分的にはちょっと手を抜いたご飯を喜んで食べてくれる。
「まあ、簡単に決められる問題とちゃうわね。ええんとちゃう?入試はもうちょっと先の事やし、今から意識付けするのは」
「悠里もそう思う。したい事はこれからもできるもん」
「そうね……、悠里も大きなったよ」
お母さんは目を細めると、目尻にシワが寄る。見た目は若く見えてもそれは実年齢との比較で、50も半ばを過ぎているのだ。私もしっかりしなきゃ、と思う瞬間だ。