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悠里17歳

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 食事が終わり、台所で後片付けをしていると、後ろからお母さんが問い掛けた。
「そうそう、時間なかったから今まで聞かれへんかったんやけど、アメリカ(あっち)は、どうやった?」
「ああ、みんな、元気だったよ。お婆ちゃん(グランマ)も悪いなりによくしてくれた」
「そう……」
 今年の春休み、私は親戚の計らいでもう一つの祖国、アメリカ・カリフォルニアに行ったのだ。
 というのも私の祖母、(ブリアナ・オコナー)Brianna O'conner の容態がよろしくなく、もって半年くらいだと言う知らせが届いたのは今年の頭だ。離婚したので母から見れば他人だけど、それでも一応元姑で、私から見ればコンタクトが取れるただ一人の祖母だ。
 といっても祖母とは10年も会ってない上、言葉(母語)も違う。現地に住む年配の人の英語はかなりクセがあるので、話が出来るかは自信はなかったので行くまでは正直不安でいっぱいだったことを思い出した。
 チケットはお母さんが手配してくれた。その辺は旅行業を営んでいるだけあって手早い。
 そんな時期に春休みの補習にも部活にも行かずに遠い外国に行くのは周りに遅れを取らないかと半信半疑だったけど、今は行って良かったと思う。お母さんがその時言ってた
「悠里が行くのはこの時期しかない」
という意味は帰国してからわかった気がする。

「そうじゃなくて……ほら」
 お母さんは本当に聞きたいことをなかなか言わない。相手の方から言わせるようにヒントを出す。私もその性格がわかっているからジラそうかと考えたが、すぐに答えてみた。
「お父さんのことでしょ?」
「そう、それ」
 今まで軽快に動いていた母の箸が止まった。
「――会えたよ、お父さん」
「何て言ってた?」
 何だかんだ言いながらもお母さんはかつての夫、倉泉スティーヴン清彦の事は気になっているようだ。
 日系二世の父は離婚後、故郷のアメリカ・カリフォルニアに戻ってしまった。それ以前に家庭がうまくいかなくなってきたのが4年ほどあったため、7歳くらいの頃までは父と接する機会があったがそれ以降はほとんどなく、今では全くといっていい。
 見た目は明らかな外国人というわけでもなく、私が生まれた後に日本国籍を取得したそうだが、日本語は理解できるが話すのは苦手で、逆に英語が苦手な実の娘である私ともうまくコミュニケーションが出来ない時があるほどだったから、今思えば日本での生活はだいぶ窮屈だったんじゃないかと思う。
 そういう経緯から、私は父についての思い出話は他の人と比べてあまりない、接してきた時間が長く、かつ言葉がわかるきょうだいと比べても少ないと思う。だけど私が覚えているお父さんとの思い出は優しくて楽しかったことの方が多い。離れて暮らしているけれど、子供とはいい関係を保っていると思う、ただ(お母さんとは)お互いに何かがうまくいかなかったんだろう、私が詮索するような事じゃないけれど。
 遠いところで父と娘が久し振りの再開を果たしたのだから、何もなかったはずがない。だけどお母さんの質問に正確に答えるのであれば、このセリフ以外に思い当たる節はなかった。
「特に、なかったね」
 お母さんの顔色はひとつも変わらない。
「あらぁ……、そうなん」
 母の箸が再び動き出した。まるで何も聞いていなかったかのように元通りの調子に戻った。気になっている割には私の味のないこんな回答で、いつも通りに振る舞うお母さんが私にはわからなかった――。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔