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悠里17歳

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 一通りの持ち歌を演奏した合い間、全部の音が止まると、外から色の黒い大きな男がこちらを見ているのに気づき、近くにいた晴乃が扉を開けた。
「おう、あんじょうやっとう?」
「お疲れ様です」
 男の名前は宮浦基彦(みやうら もとひこ)。一応地元の大学生、ちゃんと行っていても現在5回生ということだけど、まだ籍は抜いていないだけの状態であると本人は言う。彼を知る者の間では「MM」と呼ばれていて年齢は22歳ながらインディーズではあるが、神戸で同じ音楽活動をしている人で名前を知らない人はいないだろう。自らソロで活動する傍らで、新しい人材の発掘やプロデュース等を手掛けている。
 かつて私のお兄ちゃんが組んでいたバンド「ギミック」のボーカルとギターを担当していた人物だ。中学生の頃お兄ちゃんの仲介でこのスタジオで練習しているMMとの交流が始まり、私たちが細々とバンド活動(ゴッコ)をしているのを聞いて最初は暇潰し程度に私たちの指導をしていたが、お兄ちゃんが神戸を離れたあと本格的に指導してくれるようになった。

 身長193センチ、筋肉質で日焼けした肌にスキンヘッドのMMは、クォーターである私やお兄ちゃんよりも外国人っぽく見える。見た目がとにかく怖い感じであるが、私たちがS'H'Yとして活動するには欠かせない存在であることは間違いない。
「今年こそやってくれるのは君らやと信じとうねん。頼むで」
 MMはケタケタ笑いながら私の肩を叩き、横にある椅子に腰掛けた。
 私たちS'H'Yには密かな野望がある――。
 毎年うちの高校で行われる文化祭でゲリラライブをする噂がある。実はこれには前例があって、五年前の文化祭でステージでの発表が終わった直後にゲリラライブをして学生の心を見事にまとめた者がいる。それが目の前で高笑いしているMMその男で、彼が三年の時にギター一本でやってのけたのだ。
 それは既にギミック(元)としてステージ慣れしているのか、度胸があるのかそれともただの無鉄砲なのか、とにもかくにもMMだからできた事であり、以来このシーズンになると噂は上がるが実行に移せた者はいない。私たちはこの機会を使って初めてステージに立つつもりなのだ。冗談半分でMMと話していたのがやがて本当にやってみようってことになり、実行への計画を練り始めた。生徒会役員の晴乃、半ば強引に文化祭の実行委員になったサラ。運営側の根回しは今のところ順調だ。ただし、肝心かなめの実力が伴っていない。
「いきなりそんな所から始めて、段階早くないですか?」
「早すぎるもんか、俺たち(ギミック)は高二の時にアルバム出したんやで」MMはいつもの高笑いをした。
「やるんやったらとことんまでやる。後悔したら、あかん」
 そう言いながらMMはいつの間にセットした自分のギターを構えてジャカジャカ掻き鳴らし始めた。
「学校には大きな協力者がおるやん」
「協力者?」
「郁さん、おるやろ」
「郁さん?」
「英語の千賀先生と言った方がわかるか?」
「は……、はぁ」私は力の無い返事をした。

 もう一人の「ギミック」は意外に近い所にいる。今年私のクラスの担任となった千賀郁哉(ちが いくや)先生だ。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔