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悠里17歳

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14 departure



 いよいよお姉ちゃんがアメリカに帰る日が来た。今度会う時はお姉ちゃんのお腹はしぼんで、胸にかわいい赤ちゃんを抱えているだろう。出産は命懸けなのは聖郷の時に立ち会ったので深く印象に残っているから、お姉ちゃんの無事を祈るばかりだ。今度は篤信兄ちゃんが近くにいるだろうから絶対に立ち会って欲しいと願う。そして、帰りは西守先生も一緒なので来たときよりも表情が安心している。
 そして同じくお兄ちゃんも今日の飛行機で東京に帰る。バンドは新譜の収録に入っていて、発表されれば近々ツアーに出るそうだ。

 私たちきょうだい三人と西守先生夫妻、そしてお姉ちゃんの愛息、聖郷は神戸からバスに乗って空港までやって来た。出会いと別れを繰り返す、そして人は強くなる。これも修行のひとつだ。悲しくはない。寂しいことには変わらないんだけど――。
「せっかく集まったのにまたバラバラやん」
 バスを降りてからゲートに向かう道で、とんがらせた口に見えた本音を、両脇にいるお姉ちゃんとお兄ちゃんはしっかり見ていた。
「そう言いなさんな。あたしたちはいつもそばにいるよ」
「そうそう、気持ちの問題って奴よぅ」
 後ろからお姉ちゃんにお尻を、お兄ちゃんに頭をポンと叩かれた。遠くにいてもちゃんとそばにいてくれる。上のきょうだいに守られているということが嬉しくて、とんがらせた口が自然に横に伸びた。
 
「離れていても、そばにいるよ」

 以前お姉ちゃんが私に教えてくれたことだ。家が荒れていたあの時、きょうだい一緒に住んでいるのに一人だったと溢したことがあった。それは三人とも同じ意見だったのは両親が離婚して、今の自宅である桜花荘に移ってからわかったことだ。あの時は近くにいても、一人。今は、離れていても、そばにいる――。その意味に説明はないけど、なくても分かる。だから、別れることは悲しくない。私は、そう言ってくれただけで、ここまで大きく道を踏み外さずにここまでこれた。

 お姉ちゃんたちは搭乗の手続きを済ませ、あとはゲートをくぐるだけとなった。いよいよ本当にお別れだ。私は右手を二人の前に差し出して、しっかりとした目をして兄と姉の顔をまぶたに焼き付ける。
「CD出したら教えてくれよな」
「きーちゃんをよろしくね、悠里お母さん」
 私は二人とがっちり握手をした。
 そして聖郷。母であるお姉ちゃんとハグしたあと、彼は精一杯の気持ちを絞り出して、お姉ちゃんに手を振ったのだ。これにはここにいるみんながホロッときた。一番小さな聖郷が一番大きく成長しようとしている。
「悠里――」
「お姉ちゃん、任せといて」
私は聖郷にお姉ちゃんの顔を見られないように、背伸びをしてお姉ちゃんの頭を抱き寄せた。お姉ちゃんだって我が子と別れるのは辛い筈だ。今まで私はお姉ちゃんに何度も救われた。今度は私が守る番だ。
「ありがとう、アリガトね」
肩を震わすお姉ちゃん。それを見てお兄ちゃんは聖郷の前に屈みこみ、
「Bye, Kiyosato」と言って掌を聖郷の前に出すと、聖郷がその手をパチンと叩く音が響く。
「Okay, you can do it!」
お兄ちゃんが聖郷の顔を指差すと、同じようにお兄ちゃんの顔を指差した。その間にお姉ちゃんは西守先生に付き添って徐々にその場を離れて行った。きょうだいだから出来る連係プレーだ。
「じゃな!」
 立ち上がったお兄ちゃんは私の肩をポンと叩き、手を振りながら離れ行くお姉ちゃんの方へ駆け寄って行った。それからお兄ちゃんは国内線、お姉ちゃんは国際線それぞれのゲートの方に別れ、「異郷」に帰っていった。私は幼い甥と手をつなぎ二人(先生をいれたら三人だけど)の姿が見えなくなるまでその場で立ち尽くしていた。三歳の甥が母と別れるのに涙をこらえて必死に立っているんだから、母がわりの私がしっかりしなきゃ。甥っ子の手を握る力が自然に強くなる。彼は私が守る、もう見えなくなったお姉ちゃんに強く誓った。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔