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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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目には 目で

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「ジョニー・チャンです。お久しぶり・・お元気になられて何よりです。お手伝いをさせて頂きます。」
と、言いながら頭を下げた。
キダは、すぐに立ち上がり、
「A警察署長の兄がメイヤーをしている辺りの有力者すべてに会いたいのですが・・」
と伝え、それを聞いたチャンは、早速その町の事情に詳しい者に連絡を取り、有力者をリストアップした。そして、
「わざわざ直接会わずとも良いのでは・・?。此処から電話しましょう。」
と言った。しかし、キダは、首を縦に振らなかった。
「駄目だ。電話だけでは信用できない。ちゃんと話して、署名でも貰わなければ・・。それは、あんたもよく分かっているだろう。」
と言う彼の脚は、既に外に向かって歩み始めていた。
A警察署の署長の兄がメイヤーを務めるB町に向かいながら、キダは、バゴ・バンタイの主人に電話をして、頼んでおいたダンプ・カーをその町に寄越す様に言った。
そして、B町に着くと、彼は、その地域で一番の有力者で、アルマ・サントスの後援会のリーダーでもある男を訪ねた。
訪ねた家の主人は、当然の事だが、同行した秘書とは顔見知りだった。その関係で、専ら秘書が説明役となり、また、アルマ・サントス自らの電話連絡も有ったらしく、僅かな時間を費やしただけだった。
「以外にすんなり話が着いたな。」
というキダに、秘書は笑いながら、
「それは、当然ですよ。今のメイヤーの人気が落ちれば、次に彼が立候補した時、断然有利になりますから・・」
と言った。
他の者との交渉も、秘書の同伴はかなり役立ち、キダは、アルマの力を今更ながらに実感した。
その日の夜、秘書は、アルマの家にキダを誘ったが、
「俺は、ちょいと用事があるから・・」
と、彼は、其処で秘書と別れた。
既に午後十時をかなり過ぎていたが、キダは、町の繁華街に向かった。
その一角に在るメイヤーの支持者が経営するこじんまりとしたクラブ。彼は、其処に入り、席に座るとすぐに、待機させているダンプ・カーの運転手に電話をした。そして、アルコールの注文をした後、
「この店のオーナーは、毎晩此処に来るのか?」
と、店の者に聞いた。どうやら、実際には、メイヤーの支持者の息子が切り盛りしている事を知ると、
「まず、店だ。それから、奴の私邸に急いで行け。いいか、言った通りにバックからだぞ。」
と、再びダンプに電話で指示をした後、何食わぬ顔で陽気な日本人として騒ぎ始めた。
それから約30分、店の入り口に激しい音と共に大型のダンプ・カーが突っ込んで来た。突然の事に店は大騒ぎ。その間に、ダンプは、猛スピードで走り去った。キダも、他の客に混じって雲隠れした。
外に出たキダは、クラブのオーナーの家に電話をした。話し中で繋がらない。恐らく店に起きた一件で、忙しく話しているのだろう。キダは、三度(みたび)ダンプに電話して、
「未だか?・・・急げ!」
とだけ言って、自分は、タクシーを拾い一軒の安ホテルに入った。
ダンプの運転手から、キダに電話が来た。
「どうだ、上手く行ったのか?」
と聞き、彼は、満足そうに電話を切り、20~30分程ベッドに寝転んでいた。
そして、起き上がった彼は、もう一人、別ののメイヤーの有力支持者宅に電話をして、
「私は、メイヤーの近所の者で、日頃大変お世話になっています。先程、支持者のCさんのお宅に大型車がぶつかって来て、おまけに、がれきを門前にダンプして逃げ去りました。なんですか・・聞くところに依ると、Cさんが経営している店にも車が突っ込んで来たとか・・。メイヤーは、自分の支持者が何者かに狙われているのではないかと、大変心配なさっています。それで、至急連絡しているのですが、あなた方の家や会社も狙われる危険が有るので、二~三日は、何が有ろうとご自分の身を第一に・・との事です。」
と、一方的に話して電話を切り、四度(よたび)ダンプに電話した。
「今、何処だ?・・・車は、動くか?・・よし、行きがけの駄賃だ。そのまま今度は、オバンドーに在るメイヤーの親戚の家をちょいとだけ壊して、バギオに行くんだ。朝までには着くだろう。其処で、その車を適当に売り飛ばして帰って来い。車の代金があんたへの謝礼だ。」
それを聞いて、運転手は、大喜びをしただろう。いくらポンコツとは云え、ダンプ・カーとなると相当の値段で取引される。運転手は、自分のしでかした事など何処かに吹っ飛んで、喜び勇んでバギオに向かったことだろう。
キダは、更にバゴ・バンタイにも電話をした。時刻は、午前二時過ぎ。
これまた、後で聞いた話だが、この主人、
『どうして、キダは、夜中にばかり電話してくるんだ・・。」
と嘆いていたそうな・・。
一方、キダは、その様な事、お構いなし。
「どうだ、上手く話が着いたか?」
「ああ、何とか一人・・・」
「よし、今夜中に遣る様に言うんだ。」
この電話も、キダは、用件だけ終えると、すぐに電話を切った。
キダからの電話が切れると、バゴ・バンタイの主人は、A警察署の或る警官に連絡を取り、
「今夜中に、マスターの事件調書と証拠物件をもっと軽微なものに擦り換えてくれ。」
と、伝えた。
バゴ・バンタイの主人から、日頃、鼻薬を効かされている警官は、捏造して保管されている、マスターの事件に関する一切の書類などを処分した。そして、夜明け前に、僅かな罰金で釈放できる微罪で、マスターが拘留されているという書類に差し替えた。あまり早く書類を差し替えると、署長の息の掛かった警官に見付かり、再び重罪を犯したという書類に変えられる恐れが有るからだ。
バゴ・バンタイの主人の息の掛かった、A警察署の警官は、明け方、主人の指示通りすべて遣り終えた旨を、電話で伝えた。
それを受けたバゴ・バンタイの主人は、マスターの経営するプロダクションの顧問弁護士に、
「段取りは、全て着きました。必ず夜明け前に、A警察署に行ってください。」
と、連絡を入れた。
一方、バゴ・バンタイの主人とほぼ同時刻に、キダも次の指示を忙しく出していた。メイヤーの手足となって働く主要な人物は、取り敢えず動きが取れない様に工作した。しかし、まだ肝心のメイヤーの気を他に逸らさねばならなかったからだ。
彼は、まず釣り仲間のギオンソン(通称、ギョ)に電話で、
「・・どうだ、順調か?」
と尋ねた。ギョは、
「ああ、面白い事になっている。取っ掛かりに市場付近にバラ撒いたんだが、たちまちのうちに、みんな商売どころじゃなくなっている。」
「そうかい・・。その調子で、奴の家の付近も頼む。」
「抜かりはない。もう、別の者達が、バイク四台で配り終えている筈だ。」
「もう一度、念の為にあんたが回って見てくれ。」
「言われなくても、そのつもりだ。」
キダは、前もってギョにビラを用意させていた。
それには、
『メイヤーは、自分の妻が浮気をしていると勝手に思い込み、妻の素行を調べていた。そして、有ろう事か行き付けのレストランで顔馴染みになって、挨拶を交わす程度の一人の男が、彼女の浮気相手だと思い込んだ。そして、兄弟の権力を利用して、まったく別の事件の犯人として、その男を逮捕させた。
作品名:目には 目で 作家名:荏田みつぎ