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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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 2度、3度と駐車場を振り返りながら、響が英治のあとを着いていく。
掃除を終えた店員はコンビニの中へ引き上げ、残された少年2人も、
ポケットに手を突っ込んだまま、悪びれた顔も見せず、
次のカモの物色をしている。
(なるほどね。通りかかる人たちから、そんな風にして、
小銭を巻き上げるわけか。
よかった。こんな連中のトリックにひっかからないで。
それにしても、意外と冷静な部分を持っているようだな。こいつも。)
その先の交差点を過ぎてから、ようやく英治の背中へ、響が追いつく。


 (不良や、やくざは・・・・見た目は、羽ぶりがいいのよ。
 でも、羽振りがいいのは表面だけ。
 男らしさを誇示することが、かれらの習性なのよ。
 任侠の世界で生きる男たちは、精いっぱいの虚勢ばかりをはるの。
 義理人情を口にして、弱きを助け、強きをくじくと言うけれど、
 あくまでも、それも表向きだけの話です。
 わたしに言葉巧みに言い寄ってきたその筋の男たちは、沢山居ました。
 でも連中は、芸者のわたしが欲しいわけじゃないの。
 本当の狙いは、芸者を囲っているぞという、虚勢を張りたいだけなの。
 連中は、本気で女に惚れません。
 周りに見せびらかすために、良い女を捕まえることしか考えていないのよ。
 良い車や、良い時計を身につけるのと同じです。
 女だって、見せびらかすための道具のひとつに過ぎないの。
 男たちは、無駄に、切った(喧嘩)張った(賭博)を繰り返しているの。
 でも連中だって、命がけなのよ。
 油断したら、いきなり自分の命がなくなるもの。
 そんな生活を送っているんだもの、中身はそうとう荒れているわ。
 女は欲求不満のはけ口か、便利な道具くらいに思っているの。
 あんたも、不良には充分に気をつけなさい。
 男の見え見えの外見なんかに、簡単に、騙されないでね・・・・)


 (たしか母は、そんな風に言っていたなぁ・・・)
母の清子がやくざについて語っていたことを、響が懐かしい気持ちで
思い出している。
だが響の目の前を歩いている金髪の英治からは、任侠の風格や、
匂いといったものは、まったく見当たらない。


(こいつの場合は、調子に乗ると暴走するから気をつけろと、
岡本さんも言っていた。
そういえば、さっきよりも肩が左右に、大きく揺れはじめているわ・・・
やっぱり単細胞だな、こいつは。大丈夫かしら。この先が・・・)
だいぶ遅れて歩いている響を、量販店の入口で英治が渋い顔で待っている。


 家電量販店は、立て混んでいた。
開店セールと銘打って、連日にわたり安売りが開催されている。
それ目当てに、午前中から大勢の客が詰めかけていく。
店内に足を踏み入れると、目の前に、2階へ向かう巨大な階段が現れる。
「迷子に、なるなよ。」
混雑の中で、再び英治の手が伸びて来た。
有無を言わせないうちに、響の左手をがっりと握りしめる。
(まあ、いいか、別に減るもんでもないし・・)響も英治の身体に近づいて、
寄り添うような形で階段を上り始める。


 階段の中央まで差し掛かった時、急ぎ足で降りてくるカップルと、
危うくぶつかりそうになった。
英治が先に気がつく。降りてくるカップルに、進路を譲る形で左へ避ける。
目配せをおくった金髪の英治が、響の背中を押しながら、
さらに左方向へと逃げていく。
だが運悪く、男の下げていた紙袋が英治の膝へ、鈍い音をたたてぶつかった。
咄嗟のことで、英治が膝を抑え、その場へうずくまっていく。


 「お~、痛ってぇー!。おーいマジかよ。クソったれ!」

 獣がうめくような声が、英治の口から飛び出した。
紙袋を当ててしまった男も、ほとんど同時に立ち止まる。
身長が160センチの紙袋の男と、175センチある金髪の英治の視線が
階段の上下で、激しく交錯をした。
瞬間的に吐きだされた英治の挑発的な言葉は、ぶつかった相手を、
『チビ』と見くびったためだ。
小柄な男には、どことなく気の弱そうな雰囲気がある。
『どうせこいつは、気の弱い弱虫野郎だろう』と英治が勝手に、
相手のことを、決めつけた。
だが英治が思わず発した言葉に、チビの男も、過剰な反応を見せた。
(チビだと思って、俺をことを見下しやがったなこの野郎。
なめるなよ。ただじゃ、おかねぇぞ)
小柄な男の目に、金髪の英治に負けないほどの邪悪な光が宿っていた。