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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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 連載小説「六連星(むつらぼし)」第25話
「小競り合い」

 「おい!今、何て言った?」

 紙袋を下げた男が鋭く目を光らせまま、ゆっくりと英治に詰め寄ってくる。
うずくまったままの英二が、ゆっくりと怒りの眼差しをあげる。

 「お前。今、わざと紙袋を俺の膝に当てただろう。
 何が入っているか知らないが、妙に固くて、重い物体の衝撃がきた。
 こっちがわざわざ進路をあけて、階段を譲ってやったというのに、
 ろくに確認もせず急いで降りてくるから、こうしてぶつかる事態になる。
 痛いから痛いと言ったんだ。それがどうした!」

 開き直りに聞こえた男の言葉に、英治が静かな口調で抗議する。
しかし英治の内面には、別のものが揺れている。
うずくまった体勢から、ゆっくりと身体をおこした金髪の英治は、
ぞくりとさせるような冷たく鋭い視線を、一瞬だけ、相手の顔に走らせる。

 「なんだとこの野郎。上等だ、売られた喧嘩なら、買おうじゃないか。
 チビだと思ってなめていると、痛い目にあうぞ、こら」

 重量の詰まった紙袋を床に置いた男が、階段を一歩詰め寄ってくる。
短身の男は、金髪の英治の気迫に、負けじとばかりに目を逆立てる。
さらにじりじりと態勢を低くして、次第に距離を詰めてくる。
男の顔が、ついに英二の鼻先にまで詰め寄ってきた。


 「そうじゃねぇだろう。この金髪野郎。
 その前の、最初のひと言の言い方に、問題がある。
 まるで、他人に喧嘩を売ってくる時のような口ぶりと、ものの言い方だ。
 俺をチビだと思ってなめんじゃねぇぞ、おい。
 少しくらい物が当たったくらいで、大の男がガタガタ言うんじゃねぇ!」

 「口のききかたが悪いのはそっちのほうだろう。
 人に紙袋をぶつけておきながら、反省のそぶりもみせないどころか、
 逆に食ってかかってくるとは、いい根性だ。
 なんならここで、俺が、大人の正しい口のきき方っていうやつを、
 たっぷりと伝授してやろうか!」

 「やめなさいよ英治。大人げない」
響が、険悪な空気になってきた2人の男の間に、割って入る。
背の低い男の連れの女性も、背後から男の手を引いて必死に押しとどめる。
「元はと言えば、あんたのせいじゃないのさ。
人様に、荷物の入った紙袋をぶつけたのは、あんただよ。
素直に謝りなさいって。よしなさいよ・・・
これ以上、話をこじらせてしまって、どうすんのさ」
と、女が止めに入る。
しかしこれが、かえって逆効果になる。
怒りが抑えきれない男に、さらに油を注いでしまうことになる。


 「馬鹿野郎!。女が出る幕じゃねぇ。お前んなか、引っ込んでろ!」

 連れの女に哀願され、制止されかけた男は、顔色を変えてさらにいきり立つ。
停めようとする女の手を、激しく乱暴に振り解く。
支えを失った女が悲鳴を上げたまま、体勢を崩して階段の手すりまで
斜めに飛んでいく。
さらに男が、二人の間に身体を滑り込ませた響を、乱暴に横へ押しのける。


 男同士の間に残った最後の一段を勢いよく登ると、
一気に、英治との間合いを詰めた。
反射的に英治が、もろ手を突き出す。
差し出された英治の両手が、まともに相手の胸をとらえた。
鍛え抜かれた逞しい二本の腕は、男の怒り狂った突進を、ものの見事に
食い止めた。
『もう、やめなさいってば。あんた!』勢いを殺され、押し止められている
男の背後で、連れの女が立て膝の体勢のまま、腰へ抱きついてくるのが
英治には見えた。