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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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 連載小説「六連星(むつらぼし)」第22話
「マズローの欲求段階説」

 時計の針が、1時を回った。
長かった湯策の講義が、ようやく終わる。
ふぅ~と長い溜息を洩らした勇作が、テーブルに両手をついて立ち上がる。
響が急いで勇作の背中へまわる。
重心を失って小刻みに揺れる身体を背後から支える。


 「響。タクシー乗り場まで送ってやれ。
 片付けて店を閉めたら、すぐに俺も君たちの後を追う。頼んだよ」


 頼まれた響も、実は足元がふらついている。
こんなに呑んだのは初めてのことだ。
お互いに支え合うような形で、格子戸を開けて表へ出る。
外へ足を一歩踏み出した瞬間、夜気の冷たさに、思わず響が身震いをする。


 「お嬢さんは、学生でも稀なほど、質の良い、探究心をお持ちです。
 人の話を、正面から受け止めます。
 姿勢を正して丁寧に聞くうえに、おおくのものを吸収をしようと言う、
 熱意が、私にはしっかり見えました。
 そうした道や職業に進もうと、考えたことはなかったのですか?」


 勇作が、意外なことを口にする。
「いいえ、考えたことは一度もありません・・・・
質の良い探究心? いったい何の事だろう)」即座に応えたものの、
響の頭の中は、勇作の言葉の意味を反芻(はんすう)している。

 「疑問をひたすら探究する、研究者特有の嗅覚のことです。
 たくさんの学生たちをみてきましたが、あなたは良質な探求心を持っている。
 アメリカ合衆国の心理学者で、アブラハム・マズローという人が
 自己実現理論(じこじつげんりろん)という学説で、それを証明しています。
 『人間とは、自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と
 規定している。
 人間の欲求を、5段階に分類しました。
 「マズローの欲求段階説」として世間に公表されました。

 
  食欲や性欲をはじめとする、生存に関するものから、
 『大金持ちになりたい』『賞賛を得たい』、『一つの道を極めたい』
 などなど、人間は実にさまざまな欲求に基づいて、
 行動していると考えられています。
 マズローによって階層化された欲求とは、
 生理的欲求。安全欲求。愛情欲求。尊敬欲求。自己実現欲求の5つです。


  一つ目の『生理的欲求』は、人間が生きていくために最低限必要な、
 生理現象を満たすための欲求のことです。
 食物、排泄、睡眠など、個体として生命を維持するために、
 必要とされる基本的な欲求なことのです。


  二つ目の『安全欲求(安定性欲求)』は、誰にも脅かされることなく、
 安全に、安心して生活していきたいという欲求です。
 雨や風をしのぐための住居を欲するというものから、戦争などのない環境で
 過ごしたいというものまでが、これに含まれます。
 食物に不自由しなくなると、次は安心して食事や睡眠を取れる場所が
 欲しくなります。
 
  三つ目の欲求は、『愛情欲求』です。
 所属欲求や社会的欲求といわれるもので、集団に属したり、
 仲間から愛情を得たいとする欲求です。
 寝食が満たされると、誰かにかまってほしくなるのが、人間の真理です。


  四つ目は『尊敬欲求』で、これは、承認欲求とも言われています。
 他者から独立した個人として認められ、尊敬されたいという欲求です。
 今度はかまってもらうだけではなく、自立した個人として
 尊重されたくなるわけです。
 人は欲が深いものです。
 満たされれば満たされるほど、欲求は深くなります。


  頂点の五つ目が、『自己実現欲求』です。
 自分自身の持っている能力や、可能性を最大限に引き出し、
 創造的な活動がしたい、目標を達成したい、あるいは自己成長したいという
 欲求のことです。
 社会的に成功を収めた人が、社会貢献活動をする理由がここにあります。