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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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 私の発症も突然です。
 倦怠感には波があって、突然、急激に襲ってきます。
 各地を転々とする原発ジプシーや、被ばくして健康を損ねた原発労働者たちの
 生活は、いずれも極めて悲惨です・・・・
 生命保険にも入れないし、その後の就職や結婚にも影響が出ます。
 診察の際にも、医者の前にきてからようやく被ばくしたことを
 密かに告げる場合もあります。
 しかし、被ばくの事実を告げた瞬間から、私たちはどこで、いつ、
 被ばくしたのかを、細かく聞かれる羽目になります。
 これもまた、たいへんに煩雑で面倒な話です。
 だから私たちのほとんどは、まともに医療にかかることができません。
 驚くべきことに、いまはアメリカやロシア、中国などでも
 こうした「ぶらぶら病」の患者さんが、たくさん居るそうです。
 米国には、核実験の被害者、原爆製造の従事者や工場の周辺住民などに
 24万人以上の被害者が出ています。
 しかし今なお政府や医療者は一貫して、この病気の存在を黙殺しています。
 旧ソ連や中国などをはじめ、原発のあるすべての国には、
 「ぶらぶら病」の患者さんたちが大勢います。
 だがどの国も、どの医療者も、一貫して原爆症の事実を隠ぺいしています。
 それはわが日本でも、まったく同じです。


  この病気は完治するという、簡単な病気では有りません。
 ある程度まで私が健康を取り戻せたのは、ここにいる俊彦さんのおかげです。
 初めてここへ伺ったときに、あまりにも容態が悪かったため
 救急病院へ運び込まれたことが、私の治療の始まりです。
 ホームレスで原発作業員でもあった私に、健康保険はありません。
 俊彦さんの機転で治療が開始されましたが、どこまで調べても、
 原因不明による体調不良だろうと、診断されました。
 転機になったのが、広島から戻ってきた俊彦さんの同級生の、杉原医師です。
 原爆症と各地の原発で、問題になっている低被爆の資料を取り寄せて、
 その実態と症例を研究することから、解明がはじまりました。
 原発で働く労働者の健康被害については、政府によってかん口令が
 敷かれています。
 すべての出来事が政府と電力会社の圧力で、水面下に葬られています。
 私の病気への研究がきっかけとなり、桐生で体内被爆の治療と
 研究が始まりました。
 俊彦さんがきっかけをつくり、治療を担当したのが広島帰りの杉原医師で、
 資金と治療費を提供してくれたのが、原発の手配師で任侠道をまい進する
 あの極道の、岡本氏です。
 体調を崩した原発労働者たちが、このシステムを頼って
 桐生市を訪れています。
 記念すべき第一号が、わたしということになります。
 桐生は、望みを断たれた原発労働者たちにとって、大いなる希望の地です。
 なぜなら一度ひばくしてしまった原発労働者たちは、原発からも、
 健康被害からも、一生逃げられない定めなのですから。

  日本は、第二次世界大戦の戦災による廃墟の中から、世界で最も発達した
 先進的な技術国へ、目覚しい成長を成しとげました。
 そのために生産の推進力として、大量の電力の確保を必要としました。
 石炭や水力発電を切り捨てた日本は、原子力エネルギーに依存し始めました。
 その結果。いまや7万人以上の人たちが常時、9つの電力会社がもつ、
 54の原子炉で働らくようになりました。
 すべての原発で、原発ジプシーたちが働いています。
 技術部門には自社の従業員たちをあてていますが、炉心の現場で働いている
 90%以上は、一時雇用の『使い捨て』の労働者たちばかりです。
 下請けの労働者たちは、毎日、危険な現場で作業をしています。
 原子炉の清掃から、漏出が起きた時の汚染部分の除去まで、
 自らの身体をはって、仕事をしています。
 つまり、電力会社の技術者たちが決して近づこうとしない
 もっとも危険な場所で、彼らは日夜、原子炉の修理と復旧の仕事を
 しているです。
 そしてその代償として彼らは、自分の命と、健康を失うことになります」