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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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 「いや・・・・どうやら俺の口のきき方も、悪かったようだ。
 いやがらせでも、喧嘩を売るつもリもなかったが、
 突然ぶつけられたもので、少しばかり頭にきちまったのも、事実だ。
 これだけの混雑の中だ。やむをえないこともある。
 これ以上、無用に小競り合いを続けても仕方がないだろう。
 俺も引きさがるから、そっちも手を引いてくれ。
 お互いに痛み分けということで、この場を収めようじゃないか」

 英治が、突き飛ばされた響を助け起こす。

 「あんたを、チビだと思って馬鹿にしたつもりはない。
 ただ、ひと言、『ぶつけて、悪かった』と言ってくれれば、それで済む。
 こんな些細なことで血相を変えて、逆切れなんかしているようでは、
 あんたも苦労するが、あんたの女はもっと苦労する。
 いい加減に終わりにしょうぜ。こっちが100歩譲って謝っているんだ。
 もう、キリをつけようぜ」


 英治に助け起こされた響が、チビに向かって強い口調で抗議の声をあげる。


 「・・・・そうよ。あんた、引き下がりなさいよ。
 ぶつけられて痛い思いをした方が、下手に出て謝っているんじゃないの。
 あんたも男なら、この場の空気を読んでこのあたりで、
 素直に謝ったらどうなのさ。
 訳もなく虚勢をはって、威張るばかりが男じゃないでしょう」

 「よせ、響。 火に油を注ぐことになる」

 だがチビの男は、身体を動かすことが出来ない。
自分の女に背後から腰に抱きつかれ、自由を奪われているためだ。
(しょうがねぁなぁ、)とチビの男が、唇を歪めて、唾をペッと吐き出す。
ようやくのことで女の手を振りほどいたチビの男が、英治の顏から視線を外す。
だが男の執念深い目は、背後に隠れている響を睨みつけた。


 「へぇぇ・・・・
 こ生意気な口をきくあんたは、響っていう名前かい。
 あんたのその顔は、すっかり記憶して、充分に覚えこんだ。
 この目の中へ、しっかりと焼き付けた。
 何があっても絶対に忘れないぜ。おまえさんの、その小生意気な顔は。
 今日はもう、このくらいで勘弁してやるが、今度お前さんと会った時には、
 なにが起こっても知らないぜ。
 2度と俺の前に、小生意気な顔をだすんじゃねぇぞ。
 わかったな。この、おせっかい女!」


 チビの男はそれだけ言い捨てると、ふたたびぺっと階段につばを吐き捨てた。
床に置いた紙袋を拾い上げると、くるりと背を向け、女を置き去りにしたまま
ドカドカと階段を駆け下っていく。
連れの女が、響に向かって何度も頭を下げる。
「気にしないでね。大きなことをいうけど、本当は根性なしの男だから。
あなたにもご免なさい」と、英治に頭を下げてから、大急ぎで男の背中を追う。
何事がはじまったのかと、階段で足を停めて眺めていた野次馬たちも、
やがてすこしづつ、散りはじめていく。


 「まったく無鉄砲で、恐いものしらずだな。響は」

 背後で固まっている響を、英治が苦笑いをしながら振り返る。
「だって悔しいでしょう。あんなチビ助に、好き勝手を言われたら・・・・」
と、悔しさを滲ませた瞳で英治を見上げる。


 「あれくらいの事で、いちいち揉めて、そのたびに喧嘩なんかしていたら、
 いくつ生命があっても足りなくなる。
 それよりも必死で制止していた、あの女の子のことが気にかかる。
 気がつかなかったか、響?
 厚めの化粧で隠していたけど、顔に、青いあざのようなものが見えた」


 「えっ。それって・・・・もしかして・・」


 「弱いものに、むやみに暴力をふるうタイプかもしれないな。
 どうみても、こらえ性のない短気な男だ。
 チビだが意外に筋肉がついていたし、力の有りそうな上半身をしていた。
 だが、つまらない事で、すぐ自己顕示欲を爆発させそうな雰囲気が有る。
 それにしても、蛇のような目をした執念深そうな男だ。
 ・・・万が一のこともある。気をつけた方がいいな。念のために」


 「たしかに気持ちの悪い目をしていたわねぇ、あのチビ助ったら。
 その通りかもしれないわね、英治くんが言うとおりです。
 私もすこしのあいだ、気をつけます。それにしても、あなたって・・・」

 
 と、言いかけてその先の言葉を、響が呑みこんでしまう。
階段の頂点に達した英治が、途中で途切れてしまった響の言葉に
怪訝そうな顔を見せる。

(危ない、あぶない。 『冷静に対処しましたね、あなたは』なんて、
余計なことを言ったら、こいつは単細胞だから、きっとまた調子に乗りすぎる。
私に接近してくるための、口実を与えてしまうことにもなる。
用心、用心、ご用心。余計な褒め言葉は言わないようにしましょ。
だいいち市民をいじめる不良なんかに、絶対に惚れたりしません、私は。
母が言うように、男気を売る危ない商売の連中と付き合っていたら、
命がいくつあっても足りません・・・
ああ・・・それにしても、本当は恐かったなぁ。)


 俯いたままの響が、英治に気づかれないように、
お腹の中で、チロリと、赤い舌を出している。
金髪の英治に、本音を察知されないようと少しばかり可愛くおどけた
仕草なども、ついでに付け加える。

(26)へつづく