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私の中のこころたび

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華奢で小柄な子だと感じた。近づいていくと同級生の女の子は私に気が付いたようでその子の所へ向かい小声で挨拶したのだろう
「この子私の同級生でNちゃん、こっちは私の中学同級生のF君」などと紹介して貰ったはず。Nさんは私を紹介されても軽く会釈した程度で言葉も交わさず再び目線を教科書と参考書に向けた。
図書館で試験勉強中の二人と話が弾むわけもなく、また二人だけで話でもしたらと言われるわけもなくただ少し時が過ぎた。気まずい雰囲気を断ち切ろうと「じゃあ俺帰るわ、またね」
そういって二人に別れを告げ図書館を後にする。
女の子のことなどあまり気にもせず、さてここまで来てこのまま帰るのもなんだかなと思った私はお城でも見てみようと大手門へ向かった。丸亀城は何やら現存天守12城の一つで珍しくまだ大手門も天守閣も残る、それは石垣のラインが美しく昔の細みな客船のシャーラインを感じさす。その高さが日本一の城だそうだ。当時は堀の水は緑色に汚く濁りそこに沢山の亀がいた。そんな堀でも貸しボートがあり親友とここを訪れ後輩の女の子を乗せてボート遊びをしたもの思い出だ。
 その堀を渡り大手門を越して左に曲がり天守閣へ向かう道に「見返り坂」という長いそれは急な坂がある。今は綺麗になっているだろうか、当時はただ赤土の急峻な坂だった。なにせ歩いて登っていても一服してどれだけ来ただろうかと見返ることからその名がついているらしい坂だ。さてその坂を見ると威圧感のある斜度に負けたいていは自転車はそこへ置き、歩いて天守へと向かっていくものだろうが、ここで馬鹿ほど高いところ・・・がムクッと顔を上げる。 
「行かんの? ん?行けないの? 」と悪魔が囁いた訳だ。
上目使いで坂の頂上に目をやりふっと息を整えると「いったらんかい」とその坂を上りだした。ギヤを下げシットアップし、がむしゃらにペダルを踏む。確かに急ではあったが毎日の新聞配達で太ももは競輪選手かと見まがうほど発達し、何より若く体力があったので一気に上りきった記憶がある。坂の頂上は一旦平坦になり折り返し天守へと向かうがそこで自転車を止め、はあはあと乱れる呼吸のまま今来た坂を振り返り「ほら上れたやろ」とちょっと自慢げだった自分が今でも記憶に残っている。苦労して上った達成感というのだろうか、少し登山家が登頂したときの気持ちにも似ているのかなと感じるものがある。

 その紹介してくれた女の子とは殆んど会うこともなく、特別な感情を持つことも無く数年が過ぎ、今の妻と付き合っていたときの事だ。今の妻と友人の話をしていた時「私の親友のNさんがね」と、聞いたことのある名前が飛び出した。あれ?と思いその子○○の学校を卒業したこんな子じゃないのと聞くとそうだという。何で知っているのと聞かれ事情を話したが、よもやこんなところで昔紹介された女の子の名前が現れるとは思って居なかったし嫁さんは私がNさんを知っていることに少し驚きを感じていた。
作品名:私の中のこころたび 作家名:のすひろ