連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第20話
「平塚らいてう(雷鳥)」
「明治時代に、女性の主体性について熱く説いた人がいたなんて、
たいへん衝撃です。
でも雄作さんは、随分、なんに関しても詳しく良く知ってらっしゃいます。
まるで学校の先生のようですねぇ」
「響。この人の、無精ひげに騙されてはいけないよ。
この人は原発労働者に『転落』する前は、れっきとした大学の准教授だ。
訳ありでねぇこれが。 あまり大きな声では説明できないが・・・・」
俊彦が厨房から、響に言葉を掛ける。
俊彦の言葉を受けとめた当の勇作が、あははと大きな声を上げ、
腹をゆすって笑い始めてしまう。
「実はその通りなんです!、お嬢さん。
私はこれ(女)で、仕事をしくじりました ! 」
目を細めた雄作が、響の前に小指を立てて見せる。
作り直した蕎麦を手に、俊彦が響のテーブルへ戻ってくる。
唖然としている響の目の前へ、美味しそうに湯気をあげている蕎麦の器が
そっと置かれる。
「男は、もろいものです。
最愛の妻が居て、子どもにも恵まれ、仕事の将来も有望視されていたのに、
一人の小悪魔に、あっというまにやられました。
小娘の誘惑に、いとも簡単に陥落したという次第です。
いや、世間ではよくある話のひとつです。
色仕掛とよくいいますが、可愛い顔をした女性に、妖艶に迫られてしまうと、
男なんか、みんなイチコロで落ちます。
男というものは、攻める時には強いのですが、
あの手この手で、女の方から攻められてしまうと簡単に陥落してしまいます。
いやいや、世の中のすべての男性がそうだと言う意味ではありません、
私が誘惑に弱かった、というだけの話です」
「そちらのお話も、後ほどゆっくりとお聞きしたいと思います。
でも先ほどの、青鞜(せいたふ)という雑誌のお話は、もっと面白そうです。
よかったら、もう少しその先を教えていただけますか」
「おっ。ようやく、私の講義に食いついてきましたね。お譲さん。
知的誘惑に早速反応するところをみると、あなたももしかしたら、
『らいてう』と同じタイプかもしれません。
久々に、懐かしい大学の講義のようになってきました。
なんだか、熱い血が騒いできました」
『へぇ面白そうだな、俺にも聞かせろ」俊彦が冷蔵庫から
ビール瓶を取り出し、2本3本と、たて続けにテーブルの真ん中へ置く。
先に授業料を払ったからなと、グラスを片手に勇作に笑いかける。
瓶を持ち上げた響が俊彦のグラスへ、ビールをとくとくと注いいでいく。
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話 作家名:落合順平