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連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話

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 にっこり笑った響が、ビール瓶を手にすると空になった雄作のグラスへ、
泡をたてないように注いでいく。
「ありがとう、ご厚意は、冷たいうちに戴きましょう」と勇作が
グラスを持ち上げる。
目を細めて、乾杯のポーズをとる。
響も、軽く持ちあげたグラスを揺らし、雄作へ乾杯の合図を返す。


 「原始、女性は太陽だったと言った、平塚らいてうはご存知ですか。
 らいちょう、とか、雷鳥と書く場合もあります。
 本名を明(あきら)です。
 明治から昭和にかけての女性評論家で、作家、思想家として活躍しました。
 彼女を一躍有名にしたのが、「塩原事件」と呼ばれた出来事です。

  らいてうは、「女性に教育は必要ない」という時代に生まれました。
 それにもかかわらず、学問が好きで、父親を説き伏せて
 日本女子大まですすみます。
 在学の時代に、日露戦争でどんどん国粋主義に変っていく社会を、
 おかしいと思いはじめます。
 この頃の彼女に、大きな影響を与えた書物はゲーテの
 「若きウェルテルの悩み」だった、と言われています。
 そして彼女自身も、同人誌に作品を発表することになります。
 彼女の才能を認め、「とてもいい」とファンレターを送ったのが、
 同人誌を主催していた森田草平という男です。
 この2人がまもなく急接近をします。
 当然ともいえるなりゆきのなか、2人は恋に落ちていきます。

  らいてうが、森田草平と心中事件を起こします。
 これが世に言う「塩原事件」です。
 当時としては、心中は衝撃的事件だったということもあり、
 マスコミは時の人として、らいてうを一斉に取り上げます。
 森田草平のことはほとんど取り上げずに、マスコミはひたすら、
 らいてうの批判に終始します。
 「とんだ令嬢がいたものだ」と見出しをつけ、顔写真を載せます。
 しかし、らいてうは意に介する様子も見せず、それどころかこの事件で再び、
 世の中の女性蔑視的な風潮に疑問を打抱くようになります。
 やがて自らが、雑誌を創刊するようになります。
 その雑誌の冒頭によせた挨拶文が、「原始、女性は太陽だった」で始まる、
 あの有名な一文です。文章はこんな風にはじまります。

 【元始、女性は実に太陽であつた。真正の人であつた。
 今、女性は月である。
 他に依つて生き、他の光によつて輝く、病人のやうな蒼白い顔の月である。
 偖(さ)てこゝに「青鞜(せいたふ)」は初声(うぶごゑ)を上げた・・・・】

 つまり、らいてうは「女性よ、自分の力で輝きなさい。
 かつて原始ではそうであったように。」と言っているのです」



 「自分の力で輝きなさい・・・・
 かつてはそうであったように・・・ですか。凄い文章ですね!」


 「そうです、お嬢さん。
 かつての女性たちは、自らの力で、太陽のように輝いていたのです。
 女性たちのまぶしい笑顔は、実は、その象徴の名残なのです・・・・」