連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話
「それでは深夜の女性解放史の講義を記念して、まずは乾杯をしましょう。
さて、平塚らいてうは、明治19年に東京で生まれます。
父は会計検査院に務めており、母は田安家の専門医の娘です。
きわめて裕福な家庭の生まれです。
日本女子大に入学しますが、「良妻賢母」の教えに嫌気が差してきます。
大学を卒業後に、津田塾や英語学校などに通うようになります。
この時期に、生田長江が主催している閨秀文学会に顔を出し
ここで与謝野晶子と出会います。
晶子からは、短歌の書き方を教授されます。
青鞜(せいとう)は、1911年(明治44年)9月から
1916年(大正5年)2月まで、合計52冊が発行された女性による
女性のための月刊誌です。
主に平塚らいてうが担当をします。
最後の方だけ、伊藤野枝が中心になって発刊されます。
『文学史的にはさほどの役割は果たさなかったが、婦人問題を
世に印象づけた意義はたいへんに大きい』と評価されます。
青鞜(せいとう)発刊のきっかけは、生田長江が作りました。
生田長江がらいてうに「女性だけの手で文芸誌を発行してみないか?」
と持ちかけてきます。
らいてうはおおいに悩みます。
姉の友人である保持研子(やすもちよしこ)に、相談を持ちかけます。
研子のほうが乗り気になり、同級生の中野初子らを集めてきます。
その結果、女性だけの手で文芸誌を作ることが決まります。
この時、多くの費用を出してくれたのが、らいてうの母親です。
「この子は普通の道は歩きそうにない」と、らいてうの結婚費用として
貯めておいたお金を、すべて提供してくれます。
準備が整ってからが、大忙しになります。
社員の募集や原稿書き、編集など、めまぐるしい毎日が始まります。
文芸誌の名前は「青鞜」になりましたが、これにも逸話が残っています。
生田長江が「18世紀、ロンドンで文学や芸術論議に花を咲かせていた
新しいタイプの女性達は、みんな青色の靴下(ブルー・ストッキング)を
はいていた。」ということで、
それにちなみ「青鞜」の名前に決まります。
創刊第一号は、千部が発行されています。
表紙を、高村智恵子(高村光太郎の妻)が書いています。
そして明治44年。あの有名な、「原始 女性は実に太陽であった
真正の人であった 今、女性は月である。
他に依って生き 他の光によって輝く 病人のような蒼白い顔の月である」
という一節から始まる「青鞜」が発刊されます。
「女性は今、青白い月と化している。原始、女性は太陽だったのだ。
女性は主体性を取り戻して、再び輝かねばならないのである」
という意味です。
与謝野晶子はこの青鞜の創刊を知ると、高なる気持ちとともに、
「山が動く日がくる」と宣言しています。
予言は当たり、青鞜は発売した瞬間に売り切れてしまいます。
全国から、多くの激励の手紙が、らいてうのもとへ舞い込んできます。
やがて、青鞜に多くの女性たちが集まりはじめます。
長谷川時雨・岡田八千代・加藤かずこ・国木田治子(国木田独歩の妻)
森しげ(森鴎外の妻)小金井喜美子(森鴎外の妹)・与謝野晶子などです。
社員には後に有名となる尾竹紅吉・伊藤野枝・岡本かの子などがいます。
そして、中心でいつも静かに微笑んでいたのが、らいてうです。
青鞜は、日本に一大センセーションを巻き起こします。
「新しい女」が、良妻賢母の時代へ、突然躍り出てきたためです。
しかし、男がすべての中心であったこの時代は、痛烈にらいてうと
「新しい女」たちを、批判します。
青鞜の考え方は、今までの日本の女性のあり方を覆すものになるからです。
ある教師は、自分の学生が青鞜の講演会に行ったと知ると
「おお、哀れな彼女を、悪魔から救いたまえ」と言いのけました。
それほどまでにこの時代の「女性解放」は、衝撃的な出来事なのです。
らいてうに、年下の彼氏ができます。
名前を、奥村博史といいます。
らいてうは博史とは結婚せずに、共同生活(同棲)をはじめます。
「新しい女」はまたしても、スキャンダラスな話題を提供します。
らいてうはその後、「青鞜」を後輩の伊藤野枝にまかせ、
評論家として活躍するようになります。
のちに、市川房枝とも知り合いになります。
らいてうは一貫して女性解放のための活動を続けます。
昭和46年に85歳で亡くなるまで、一生を女性開放運動に捧げます。
まあ、おおまかに解説をすると、そんな話です。
時代が変わる前にはかならず、こういう先進的な人物が例外なく登場します。
幕末から明治維新期にかけての坂本竜馬。
女性解放のために献身的に活動した、平塚らいてう。
東日本大震災の復興のために献身的にがんばる、ジャンヌダルクたち・・・・
これは被災地で頑張っている女性たちへの、私からの総称です。
日本の原子力行政はいま、重大な岐路に立っています。
福島第一原発は、津波で壊滅的な被害を受けました。
しかしまだ、53基の原発が、再稼働をめざして待機しています。
ひとつの原発が被災しただけで、東日本全体が放射能で
重大な被害を受けました。
飛散した放射能の被害は、数十年以上も、深刻な影響を残します。
大地震予測では、ここ30年以内に未曾有の規模で大地震がやってくると
相次いで発表をしています。
大地震の危険性を前にして、無防備の原発をこのまま放置を
する訳にはいきません。
だが現実には、原発抜きの日本の未来図がまだ描けていないのです。
人の命に関わる重要な問題なのに、いまだに日本の支配階級は、
曖昧なまま決着をつけようとしているのです。
日本の未来が問われる転換点が、すぐそこまでやってきています。
原発と闘い、立ち向かう真のジャンヌダルクが
登場するといいですね・・・・」
「原発に立ち向かう、ジャンヌダルクの登場?・・・・」
響がその言葉に反応をして、思わず息を呑み込みます。
(21)へつづく
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話 作家名:落合順平