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連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第19話
「女性の笑顔は・・・」

 「まったく、知りませんでした・・・・。
 日本の原発が、それほどまで脆弱な基盤と、虚像の上に
 成り立っていたなんて。
 福島での事故と、災害へのもろさが露呈しなければ、日本の原発は
 さらに増えていたのかと思うと、背筋がぞっとします」


 「政府や電力会社は、原発を推進するために必死になって、
 原発の『安全神話』を、国民に向かって宣伝してきました。
 しかし多くの原発が、危険な海沿いに作られているのは事実です。
 大震災の津波は、安全性の根拠としてきた対策そのものが甘いものであり、
 かつ、誤魔化しだったという事実を明らかにしました。
 福島第一原発のあの事故は、多くの原発に共通している危険性を、
 あらためて、国民の前に露呈したといえるでしょう」


 響がひとつ、深いため息をつく。
響のために用意されていた蕎麦は、すっかり冷めてしまっている。


 「どうやら、食事をしながら話すような話題ではなかったようだ。
 響。温かい蕎麦を作ってこよう。
 若い響には、少しばかり刺激が強すぎた話のようだ。
 雄作さん。話題を変えてくれないか。このままでは響が可哀そうだ」

 
 「いいえ、続きを、お聴きしたいと思います」


 
 響が強い意志を込めた瞳で、俊彦を見上げる。
その目は、続けて無精ひげだらけの雄作にも向けられる。

 「たしかに私は、何も知らずに呑気に育ちました。
 鉱毒事件を起こした足尾の町を通過した時も、トシさんやお母さんたちが、
 煙害で荒廃した山を復活させるための、活動していることを聞きました。
 私も、よそ見ばかりをして生きているわけにはいかないと感じています。
 もうすこし、いろいろなことを私に教えてください。
 雄作さんが原発で体験もをしてきたことも、トシさん達が手がけている、
 原発労働者の救済の話も。」


 雄作の目が優しくほほ笑む。
髭だらけで熊のような顔が、優しく崩れていく。
両手で包みように持っていたグラスの中身は、いつのまにか
すっかり温まりきっている。
(そういえば、ビールを呑むのも忘れていた・・・)
苦笑を浮かべた雄作が、一気に温まったビールを喉の奥へ流し込む。

 「う~む・・・・温められたビールは、ただただほろ苦いだけで、
 まったく美味しくありません。
 私の人生と一緒です。
 実になんと言うか、ほろ苦いだけの味がしますねぇ」


 雄作のぼやきを聞いて、響が口に手をあてて大きな声で笑い出す。
無邪気に笑う様子を見て、雄作がぼろぼろと音を立てて後頭部を掻く。


 「お嬢さんは、笑うととてもチャーミングです。
 やはり若い方たちの笑顔には、格別のものがありますねぇ。
 大人になればなるほど辛いことが増えますので、いつのまにか、
 苦虫をかみつぶすような顔に変ります。
 それでもやはり、笑うという事はとても大切なことです。
 女性の笑顔は、宝物です。
 とりわけあなたのように、綺麗な方ともなれば、それはなおさらです。
 お化粧や服装などで、見た目と自分の外側は飾ることができます。
 しかし、美しい内面を表現するのは、あなたのような笑顔です。
 あなたはたいへんに美しく笑える、そんな女性の一人です。
 たぶんあなたは、素敵な笑顔がいつも溢れている環境の中で、
 のびやかに育ってきたのだと思います。
 まずはそうした、あなた自身の恵まれた生い立ちに、
 おおいに感謝などをすべきでしょうね」


 「そういえば、私の母もとても素敵に笑います。
 置き屋のお母さんも、顔を皺だらけにして笑いますが、品のある笑顔です。
 伴久ホテルの若女将は、接客のプロということもありますが、
 こちらの気持ちまで和ませてくれるような、ここちの良い笑顔を見せてくれます。
 そうなんですね。そういうことだとと思います。
 そういう人たちが、私に笑顔を教えてくれたのだと思います」

 「貴方の笑顔は、そのままあなた自身の名刺のかわりにもなります。
 男たちは例外なく、あなたの笑顔できっと癒されることになるでしょう。
 おそらく、もっと若い男たちならば、もっと大変なことに、
 きっとなるだろうと思います」


 「あら。私はまだ男の方と、正式にお付き合いをしたことがありません。
 狭い湯西川で、地元を代表するような女性たちに囲まれていたため、
 常に警戒をされて、結局は誰一人として言い寄ってきませんでした・・・・
 笑顔には自信が有ったというのに・・・可笑しいですねぇ」


 「あっはっは。お嬢さんの魅力が花開くのは、これから先のことです。
 10代の頃の美しさは、無垢で純粋な部分から生まれてきます。
 本当の美しさは、もうすこし人生経験を踏んでから産まれてくるものです。
 例えば・・・・哀しみや失望といった挫折や、人生の辛酸をなめてから
 女性自身が磨かれて、美しさというものが生まれてきます。
 試された者のみが持つ、人間本当の美しさです。
 子供を産んだ女性が美しく光り輝いて見えるのは、実はそのためです。
 あなたもそうなる資質は、十二分にお持ちです」