連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話
「あなたは、実によく気が利きます。
仕草もチャーミングだし、誰にでも同じように接することができる
女性のようだ。
お母さんは芸者さんだと伺いましたが、その優しさは、
お母さん譲りのものですか?」
珍しく響が、頬を赤く染めている・・・・
「あなたも一杯どうですか」と、雄作がビールをすすめる。
「原子力発電所内では、危険が多い「『放射能汚染区域』と、
安全と言われている、『非汚染区域』に分類されています。
安全と言われている非汚染区域での仕事は、被ばくの危険性は
ほとんどありませんが、その分だけ狭いところでの、熱と金属のホコリに
苦しめられながらの、辛い作業が続きます。
取水口付近での、吐き気を催すような悪臭の中でのヘドロのかきだし作業や、
タービンのさび取りなど、劣悪な作業環境下で
そうした作業がおこなわれます。
放射能汚染区域も、汚染の程度により、
低汚染区域と、高汚染区域の2つに分けられています。
高汚染の区域では、放射能を吸い込まないように必ず全面マスクを
着用します。
身体に放射能がつかないように、手袋や靴下などは3枚を重ねて
使用しています。
全身を覆う防護服を着用したうえで、最後に長靴を履きます。
マスクを付けると、それだけで大変に息苦しくなります。
その上、作業場は暑くて汗が滝のように流れ、マスクは熱気ですぐに
曇ってしまいます。
作業の能率のために、危険とは知りながらも中には、
マスクを外してしまう人たちもいます。
首には一定量の放射線を浴びると警報ブザーが鳴る、
アラームメーターをかけます。
被ばく線量を測るポケット線量計も必ず、装着をします。
汚染区域に入るには、これだけの厳重な装備が常に必要になります。
高汚染区域では、すぐにアラームメーターが鳴ってしまうために、
長い時間にわたって作業をすることができません。
原発炉心部への入り口などで、原発労働者たちが順番を待って
一列に並びます。
被曝線量がきわめて多くなるために、数分刻みで現場の作業員たちを
交代をさせるためです。
1日に1000人以上の下請け労働者達が、炉心清掃のために動員されます。
人海戦術で、作業を刊行するのです。
その結果、被ばくがよりおおくの労働者たちの間で分散してしまいます。
これらの理由により、原発は常に『使い捨て』用のたくさんの
労働者たちを必要とするのです。
作業現場によってはアラームが鳴り、すぐに交代したのでは効率が悪いため、
これを無視して、作業を続けさせている場合もあります。
あるいはポケット線量計をどこか他の所において、仕事をする人も
出てきます。
ですから報告された被ばく線量と、実際に受けた被ばくの線量が
違う場合なども、現場ではしばしばある事です。」
初めて聞くあまりにも過酷で凄惨な原発労働者たちの作業の実態に、
響が、言葉を失ってしまう。
身体を固くしたまま、雄作の話に耳を傾けている。
厨房から戻ってきた俊彦が、そんな響の様子を気遣って、そっと肩に
手を置いた。
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第16話~第20話 作家名:落合順平