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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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「言って。思ってること、全部」
「つ、つらい思いしないで・・・苦しむくらいなら逃げて・・・っ」
「わかった。他には?」
「と、遠くに、行かないで・・・伊吹さんがいなくなったら、い、嫌だ・・・」
「・・・行かない、もうそんなこと言わないから・・・ごめんね」
「ううっ、うう、うー・・・」

涙がどっと溢れて、絢世は泣いた。不安や戸惑いが、涙になって流れていく。優しく、ためらうように抱き寄せられて、伊吹の胸に顔を埋めた。温かくて、いい匂いがする。背中に回した手でシャツをきつく握る。

「俺ばっかりが、苦しいんだと、思ってた・・・」

囁きはきっと独り言だったのだと思う。

「・・・ありがとう」

抱き返してくる力強い腕。そこにもう迷いや戸惑いがない。決めたのだな、と絢世は悟る。
もう離れなくちゃ。彼はこれから行かなくてはならないのだから。

(もうちょっと、こうしてたいけど・・・)

絢世やゆっくり身体を離した。

「・・・平気?」

伊吹と距離をとりながら何度も何度も頷く。顔を見られない。

「ごめんなさい・・・恥ずかしい・・・」

絢世は顔を両手で隠した。暗いからよく見えないだろうけど、泣いて抱きつくなんて最低。すごく恥ずかしい。嫌われたらどうしよう。でも。


「ありがとう。目が覚めた」


しゃんと立った伊吹が、まっすぐな瞳で絢世を見つめているから、嫌われてもいいやと思う。