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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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風、彼方より舞い戻る 神末家綺談8

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因果律



10月も末になり、夕刻はすっかり寒くなった。寂しい風が吹いている。雨戸を閉めようと縁側に立った伊吹は、夕闇の中に光る村の家々の光を見つめた。暗い海に漂っているような不安が押し寄せてくる。

(寒いな・・・もうすぐ冬がくるのか・・・)

季節が確実に流れていく。残酷だと思う。コスモスも彼岸花も、もうなくなった。吸い込む空気は冷たくて、身体の隅々まで冷えていく。瑞と心を交わした秋が、そろそろ終わろうとしていた。

「伊吹、ご飯にしようか。瑞はどこかな」

穂積がやってきて尋ねた。優しく穏やかな穂積の顔を見ても、伊吹の心は晴れない。

「・・・呼んでくる」

どこにいるかはわかっている。このところずっと、姿が消えているとき、決まって瑞はあそこにいるのだ。縁側からサンダルをひっかけて、伊吹は雑木林を抜けて、山へ続く鳥居へ向かう。暗い。小さく灯してある灯篭の頼りない光を頼りに進んでいく。

「・・・瑞?」

瑞がいた。鳥居の前に立ち、じっと長い階段の上を見つめている。階段は途中から、深く茂った木々に覆われ、その先や山へと続いている。終わりは見えない。

「・・・帰ろう、ご飯だから」

胸の中に、闇のようにべったりと不安が広がる。このまま、もう、瑞が手の届かないところに行ってしまうかのような不安。この鳥居の先には、そう、彼の妹の魂が祀られているのだという。神の婿たるお役目だけが、婚姻の夜にここを進むことを許される。何があるのかは、伊吹も知らない。

「帰ろう、ねえ早く」

瑞の腕を引く。そこで初めて伊吹に気づいたかのように、瑞の身体がびくっと震えた。

そんなところをじっと見つめていないで、家に戻ろう。いつもみたいに、笑ってご飯を食べようよ。俺の知らない、別人のような顔をしないで。お願いだから。

不安でたまらない。瑞がここに佇み、虚無の表情で先の夜闇を見つめていることが、伊吹には耐えられない。

「ごめん、ぼーっとしてたな。帰ろう」

いつもみたいな軽い口調が返って来て、伊吹はほっとする。

「・・・毎日ここで何をしているの?最近ずっとだよね・・・」

隣り合って家に向かいながら、伊吹は尋ねる。胸に巣食う不安を、何とかして払拭したかった。瑞は黙っている。伊吹の声が届いていないかのようで、伊吹は瑞、と再度呼びかける。


「呼ばれている気が、するんだ」


瑞はそれだけ言った。そしてその言葉を取り消そうとするかのように、伊吹の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、腹減ったなといつもの口調で笑うのだった。

――ああ、そうか。
別れが迫っているのだな。
漠然と、伊吹にはわかってしまう。隙間風に吹かれたのように、心がひんやりと冷えていく。







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