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関西夫夫 クーラー4

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 秘書が、適当に茶菓子も用意してるから、机の上を見渡したら、端っこにペットのお茶と一緒に三日分ほど放置されてた。これこれ、と、とりあえず、そこのもんを食った。胸糞悪い甘いお菓子やが、背に腹は変えられへん。せっせと食って茶で流し込んで、残りの仕事を片付けた。

 なんとか定時より一時間後ぐらいで仕事は片付いた。データの整理をして、一応、用心のため、そのデータは関西支社の俺のアドレスへ送りつけておく。プリントアウトしたものと、付箋をつけた書類なんかは、堀内の机に積んでおいた。来週も、こんな感じなんやろうなあ、と、思いつつ、オフコンの電源を落として部屋を片付けてたら、総務課長がやってきた。たぶん、バタバタしてるから秘書から連絡でもいってんねやろう。
「浪速さん、片付けは、我々が。」
「ああ、ゴミだけ回収してください。あとは、専務に渡すデータですから、ここは鍵閉めさせてもらいます。」
 ゴミは、ここや、と、秘書のおねーちゃんに声をかけたら、それらだけ回収して引き上げてくれた。
「じゃあ、タクシーを呼びましょうか? 」
「いや、ビジホ寄って駅へ向かいますんで、よろしいですわ。ここ、大通りやから、すぐにタクシーは拾えますやろ? 」
「精算は、うちのほうでさせてもらいますよ。」
「精算は朝してあります。荷物とかあるから取りに行きますねん。 そんなに気つかわんといてください。ただのペーペーですねんから。」
 三日分の洗濯物は面倒臭いからホテルに預けてある。ほんまは、そこへ吉本花月で予約した部屋に泊まり直すつもりやったからや。まあ、キャンセルして、そこでタクシーを呼んでもらえば済むことなんで、総務課長も追い出して、部屋の鍵はかけた。ご丁寧に総務課長は、玄関まで見送るとついてきた。
「足、どうしました? 浪速さん。」
「捻挫ですねん。バレへんようにしてたんやけど。・・・靴でバレますわな。」
 一応、サンダルやが茶色で布の、見た目には靴っぽいサンダルを、花月が用意してくれた。正面から見たらバレへんが歩いたら、バレる。なんせ、まだ、足を引き摺ってる。もう二週間なんで、そろそろ痛みもとれるとは思うが、捻るような動きをすると、痛い目に遭う。
「それで、堀内さんが呼び出ししたんですか? 」
「らしいですね。」
「まあ、私としては助かります。あの人たちがいないと、いろいろと無理を言われますので。」
 玄関を出てから、総務課長は、そう言って苦笑した。なるほど、俺が来さされた理由として沢野が言うてたが、ほんまに俺でも牽制になってるらしい。
「それも言うてましたで? 」
「やはり、そうですか。・・・・おふたりが東海のほうの体制を整えておられて留守がちなんですよ。」
「そう聞いてます。なかなか関西へ戻れへんって堀内が嘆いてましたわ。」
「はははは・・・そうでしょうねぇ。本社にも週に一度か二度しかお戻りではありません。浪速さんも寂しいでしょ? 」
「いやあ、留守してくれてるほうが楽でよろしいわ。側におったら、うっとぉしいだけで。・・・失礼してもよろしいか? 」
「ああ、お時間取らせてすいません。どうぞ、週末は堀内さんとゆっくりしてください。」
 総務部長は、軽く会釈して、そう言った。まあ、そら、そう堀内が断言してるんやから、そうなるわな、と、俺も頭を下げて、徒歩数分のビジホまで歩いた。



 夏は、それほど忙しくない季節なんやが、他所の課の応援に借り出された。そっちは、秋のイベントの担当で、今年は十五周年の大きなイベントになるため、準備も大変やということで、暇なうちの課まで手伝いをさせられている。イベントの細かい作業が本格的になってるので、なかなか仕事が捗らない。そんなわけで、俺の名古屋遠征は阻止されてしまった。金曜の昼までは、なんとかなりそうやったのに、いきなり仕事が追加されたからや。あいつら、どんだけ他所の人間をこき使う気なんやと、うちの課でも、ブーイングの嵐になってる。なんとか仕事が終わったのは十時を過ぎてた。
 よれよれで、家に帰ったら灯りがついてたんで、トントンと階段を昇る。
「ただいまぁ。」
 玄関開けて、声をかけたら、「おかえり。」と、声がして、ええ匂いがしてた。
 居間に入ったら、台所で、俺の嫁がなんかやっている。たぶん、吸い物かなんかやろうと、とりあえずスーツを脱いだ。ワイシャツも脱いで、パン一で食卓の椅子に座る。
「駅弁ちゃうん? 」
「駅弁もあるで。俺が食いたなってん。名古屋っちゅーたら、きしめんやろ? 」
 ええ匂いやと思ったら、うどんの出汁やった。ただし、それは名古屋の粉末出汁で、その味は、確実に、俺の嫁には合わない。
「あのな、水都さん。それ、かける前に、味見してみ? 」
「おう。」
 スプーンで掬って、ふうふうと冷まして一口飲んで、うげっと叫ぶまでは、お約束やった。そらそうやろう。名古屋の出汁は、鰹節がメインの出汁で、昆布出汁に慣れてる関西人には合わないんやから。
「出汁はあきらめ。タマゴがあるから釜玉にしよ。あと、ネギと海苔入れたら、ちょうどええわ。」
 やれやれ、と、立ち上がって冷蔵庫から生卵を出す。茹で上がる直前やったから、この手が有効やった。生卵を、ドンブリに割って、茹ったきしめんを投げ込み、その上にネギと味付け海苔を置いて醤油をたらす。これで完成。これなら、タマゴで多少は冷めるので、俺の嫁でも食える温度に近くなる。まあ、湯気が出てる間は、用心して食わないであろうから、生卵を、もう一個割って、さらに温度は下げた。
「ほれ、これで食える。・・・ん? 幕の内? えらいノーマルなもんを。」
「ちゃうねん、ほとんど売り切りてて、これしか目ぼしいのがなかったんや。時間が遅かった。」
「ああ、そうか。・・・まあ、ええわ。いただきます。」
「いただきます。・・・なあ、花月、えらい家の中が荒れてるんやけど、そんなに忙しかったんか? 」
「忙しいねん。ほんま、応援やのに残業三連発とかおかしい。」
「明日は? 」
「休むで。休むために残業してたんや。」
 というか、世話を焼ける俺の嫁がいないので、どうも調子が出なくて、掃除も洗濯も適当になっていたが正解や。メシもコンビニメシで済ましてたんで、部屋の中は殺伐とした雰囲気にはなってた。
「俺、明日、掃除したるから、おまえは、ゆっくりしいや? 」
「ドアホ、そんなもんはええ。明日は、きちんと料理作る。・・・・どっかのアホの頬が削げてるねんけど? それは、どういうことなんや? 」
 元々が鶏がらの俺の嫁だが、たかだか三日の出張で、頬の辺りがこけている。どうせ、メシを食わず、缶コーヒーで済ましたに違いない。
「昼飯が豪華な弁当やってん。ほんで、それ食べたら、満腹して晩飯がはいらへんかった。」
「また、缶コーヒーか? 進歩のない。」
「こっちも仕事が忙しいて、連日残業やったんや。・・・それに、なんかもみないから食べたなかったし・・・」
「あっちのもんは味付けが違うんや。コンビニのおにぎりなら、同じやから、そういうの食うたらええがな。・・・・うどんとかはやめときや? さっきので解ったやろ? 」
「なんか、えらいキツイ味なんやな。前は、そんなん思わんかったんやが。」
作品名:関西夫夫 クーラー4 作家名:篠義