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水族館

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先行くキミからチケットを受け取ると、連なって水族館のゲートを潜り抜けた。
長いエスカレーターを上がって暗いトンネルを抜けると、そこは海の底。
魚たちの楽園。
ボクたちのほうが 迷い込んだような感覚だ。音は聞こえているのに沈黙の世界のようだ。
上も左右も海の世界に入ると、キミの脚がボクを待っているかのように止まった。ボクと並んだ同時にキミはボクの腕にしがみついてきた。
(やっぱり 女の子だなぁ)

「しっかりと掴まってていいよ」
「はぁい」(あ、可愛い)

通路に余裕はあるけれど、ボクとキミの体温が感じられるのもいい。キミの肌が 不健康な塊(らしい)のボクを緩めていく。キミはボクの腕のところにいるのに キミの見つめるものと興味は ボクからずっと遠いところにあるみたいだね。

カワウソ、アシカ、ペンギン、アカハナグマ、ピラルク、カピバラ、イルカ、マンタ、ジンベイザメ。他にも様々な魚たちの青い世界がボクとキミの前に広がる。ボクたちも周りのカップルたちも強化プラスチックの向こう、青い世界に魅了された。

「この水槽はたくさん泳いでるね」
「サメがいる。大きいな…」
「ジンベイザメだよ」
「ふーん、レトロな模様ですねぇ」
「あれ クジラ」
「あれ イルカ?」
「イルカはクジラ」
「クジラは こぉーんなん」
キミは、繋いでいない片手を大きく回してボクを見上げる。
「大きなクジラは、此処に入らないでしょ」
「そうにゃ… わかった。すごぉい。物知りにゃん」
キミは褒めてくれているのか…… どうだ見直したか…… 本当に分かっているのかな?

 ー グゥゥゥ〜・・・ ギュルルゥゥ ー

ボクの腹じゃない。キミのお腹が空腹感を訴える音だ。

「食べちゃ駄目」
「にゃはは。おうちで食べるお魚が泳いでるんだもん」
確かに見ていたら 腹が減った気がした。
「ごはん食べてきた?」
「にゃん… でも大丈夫」(やっぱり 早かったからかな)
充分楽しんで 早目にごはんを食べさせてあげなくちゃね。此処の魚から被害届が出てはいけないからなと思うボクだった。

作品名:水族館 作家名:甜茶