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水族館

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目的地の水族館の最寄駅に着くと、多くの若いカップルがその駅で下りた。
本当は、ぼんやりしていて乗り過ごすところだった。これは キミには絶対言わないでおこう。言えば きっと目を輝かせて『にゃん』と笑うにきまっている。

ボクは、前を歩くカップルに着いて改札を出た。着いたぁと気が緩んだのか ふと周りに気を取られている間に彼らを見失ってしまった。っと、どちらに行けばいいかは分からない…。背中に嫌な汗が滲みだしてきそうだ。
なぜならキミと同じくらい、ボクは方向音痴だ。あ、これもキミには絶対言わないでおこう。目が泳ぐ。ボクは、迷子になった不安な子犬…… クーンと心で鳴いてみた。

あ、とりあえず、あの若いカップルたちの向かう方に歩いてみよう。
たぶん こっちさ。うん だいじょう…ぶ…
ほぉらね。
二分も歩けば、向こうのほうに見えてきたぞ。
きっとあそこが キミが指定した待ち合わせの場所。
ほらみたことか、大正解!
どうだい、みんな見たか。見てないか。まあ見なくてもいいさ。

ボクは安堵した。遠くからでも見えてきたのは五メートル程の高さの日時計の柱。
その日時計の近くまで来るとキミの背中が見えた。
確かキミは『九』のプレートの上で待っているって言っていたけど、また謎かけかな。

ボクは、極々普通に キミの後ろ姿に声をかけた。
「おまたせしました」
「ん、にゃ?」
「え、駄目だったかな」
「おそいにゃん」
「はやいでしょ。だってまだ……」
水族館は 開いたばかりだ。約束の時間にだって遅刻はしていない。
はて? またキミの瞳に答えを探すボクは、仕事よりも考える。
「チケット買ったよ。すっごくおそいから」
「時間、間に合ったよ。うん予定通りだ。で、どうして待ち合わせ?」
キミの言うことが 何となくわかったボクは、笑いをこらえ唇の端が少し震えた。
「日時計、ほら 素敵でしょ」
「うん、素敵だね」
「だから にゃん」
キミが、とても楽しみにしていたことが伝わってくる。
早く来ていたんだね。日時計をボクに見せたかったの? でもまだ解けていない。 
「九時のプレートは?」
「ク、ク、クジラに 会いたいにゃん」
「そっか」
「さぁ、はいろぅ。待っててにゃん ク・ジ・ラ」

作品名:水族館 作家名:甜茶