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水族館

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魚たちの水槽を抜けると、最後にクラゲの世界が始まる。キミはクラゲの水槽の前に来ると、ずいぶん長く眺めはじめた。

「ふわぁ〜 ふわぁ〜
   ふわぁ〜 ふわぁ〜 水槽の中で 何を思うの」
クラゲに合わせて、首を上下に揺らすキミが 踊り出すんじゃないかと気になった。
「何を考えているんだろうね。
  でも ちょっと羨ましいなぁ」
「クラゲになりたい?」
「一日くらいなら」
「二日目は?」
「仕事する」
「また不健康仕事にゃん」
ボクは、キミの頭に手を乗せて なでなで。心配いらないよと呟いた。
見上げるキミの笑顔が明るかったから ボクは安心した。
「じゃぁ、帰ろっか」
「ほぉい」
「今日は 家まで送るよ」
「いいの? 送ってくれるの?」
あぁと頷いて見せると キミはいつもの笑顔以上に笑顔になった。
「にゃ? どこまで」
「どこまでも」
掌で口を覆うようにする仕草は まるで幼い女の子のようだった。(やっぱ、可愛い)
「どこまでも?」
「うん。どこまでも」
「んじゃあ どこにしようかなぁ」
「おいおい、男が女を送るっていうのは、家の前までだよ」
「そっか…… 家まで来るの? 父と会うのかにゃん?」
「危ないからね。お父さんとは会っていかない。あ、暗くなるとってことだよ」
「おやまぁ。 まだ、明るいですよん」
どうも まだまだ仕事や以前の就活の頃が思い出され、気持ちが後退してしまうのは仕方がないことだろうか。苦手と思うのは、たぶんまだ自分の器に自信がないからだろう。

ゲートに向かう道。お決まりのように並ぶお土産コーナーで キミは脚がスローに変わる。
どれ? これ! いいよ。
キミが選んだのは、此処の主役のようなジンベイザメのぬいぐるみだった。実際はあんなに大きいのに キミの掌に包めるくらいのちっちゃなやつ。
少しばかり歩き疲れたけれど、ボクの元気は、すっかり回復してしまったよ。
「ご飯食べて帰ったら もう真っ暗の頃だね」
「ほんとに?
  やぁったぁぁぁぁ、何食べよっかにゃん」
「魚以外なら何でもいいよ」
「一匹 釣ってきたら良かったね」
 
作品名:水族館 作家名:甜茶