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私の読む「枕草子」 133段ー156段

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「いはで思うぞ」という歌の出だしの言葉を思い出せなかったこと、童が教えてくれたことなどを申し上げると、大変に笑われて、
「よくそんなことがあるものですね。あまり知りつくして馬鹿にしている古歌などは、きっとそんなこともあるでしょう」
など言われてついでに、

「謎かけをしたところ、左右に分かれたわが左の組は、そうした事に達者だった人が、『此方の組の一番目の問題は私が言おう、私に任せて』
 と言って皆を頼りにさせるので、いくら何でも下手なことは言い出すまいと、皆で作ってその中から選定する時に、
『出題の文句を全部私にお任せ下さい。そう申したからには、まさか下手なことはしませんよ』
 と言う。尤もなことと考えていると、謎かけの日が近くなってきた。
『やはりその文句を言って下さい。ひょっとして同じ文句が出たら大変です』
と言ってやるのだが、
『それならばもう知りません。お頼みなさらぬがいいでしょう』
などと腹を立てたので、不安なままに当日になって、男女が一組づつ左右に分かれて審判の人、見物の大勢が居並んでなぞなぞ合せをはじめたところ、左方一番が結構もったいぶって何を言うのか、と見守っている。

味方も敵も一同待ち遠に見つめて、「なぞなぞ」と言う時の緊張感。
『天に張り弓』(上弦下弦の月)
と問題を言った。右方の人は、大層面白いことを言ったと思うが、味方の人々は茫然として皆憎く不快になり、さては先方に通じてわざとこちらを負けさせようとしたのだなと瞬間気づいたのですが右方の人、
『何と張り合いもなく馬鹿馬鹿しい』
大笑いして、
『やあこれは、一向に分りません』
と言い、わざと口を、へ、の字形にして
『知らないわよ』
 と、おどけたしぐさをしかけると、審判は勝ち点の印の籌(かずさ)を籌刺(かずさし)という容器に刺してしまた。

 敵方の人は
「これは妙な。これくらいのことを知らぬ人があるものですか。全然点にはなりますまい』 と反対しますが、
『知らないと言った以上は当然負けでしょう』
ということで、次々と勝負を続けるが、この人が理屈を言って我が方を勝たしてしまった。

 誰でもが知っていることでも、忘れて思い出さない時はそんなものですね。一体どうして知らないと言ったのでしょう。あとで恨まれたことです」
 と、中宮は語られると、お側の人々はみんなそう思うに違いない。
「うっかり下手な答えをしましたね」
「味方の気持でも、その謎を最初耳にした時はどんなに憎らしかったでしょう」
 なんて言って笑う。
この例は私の場合のように忘れて失敗したのではない、ただ誰も知っているので油断したためと思われるが。

【一四四】
 正月十日過ぎ、空が大変に曇って雲が厚く見えながらそれでも日は鮮やかにさし出た時分、とある人の家の荒畠といって土もきちんと平でない所に、若い桃の木で若枝がのびたのが多く、その片側は大層青々として、もう片方は濃くつやつやして蘇枋色をしているのが、日の光に見えている、そこへ大変ほっそりとした童、髪がとても綺麗で、着ている狩衣を何かに引っかけて破り、木に登ると、着物をたくし上げ着た男の児や脛を見せて半靴を履いた児達が木下に立って、
「毬を打つ枝を切って」
 などとせがんでいると、髪を斜めにした童が、袙(あこめ)をほころびに着て、袴はよれているが立派な袿を着た三四人が来て、
「卯槌用に良い木を切って下ろせ。御主人様のお求めです」
などと言って、言われたとおりに童は木を切って下ろすと、下の童達は我がちに奪い取って、上を見て、
「私にもっとお呉れ」
 などと言っているのが面白い。

 黒袴の男が走って来て呉というと、
「待って」
 木の上の童が言うと、男は木の元を揺すると、怖がって猿のように木に食らいついて、わめくのが面白い。梅の木が実を付けた時にもそんなことをするのだろうか。

きれいな男が双六を一日中打って、それでもまだ足りないのか、丈の低い灯台に火を灯してあかあかとかかげて、相手が、こちらによい目が出ないようにと祈って急にも賽子を筒に入れないので、自分の賽を入れて振り出す筒を盤の上に立てて待っている。狩衣の襟が勝負の時にはずしてあるので、垂れ下がって顔にかかるのを片手で押し入れて、固くない烏帽子の垂れ下るのをふりやって、
「賽をどんなに呪っても、決して外さないぞ」 
と、待ち遠しげに見守っているのは、実に自信がありそうに見え ることだ。

【一四六】
 碁を高貴な地位の人が打つといって、直衣の紐を解いて、うち寛いだ無造作な様子で石を拾って置くと、身分の下の相手が、いずまいも畏まった様子で碁盤からはすこし離れて及び腰で袖の下方はもう片方の手で押えなどして打っているのも可笑しいが当然な姿かな。

【一四七】
 恐ろしい感じがするもの。
 つるばみ(どんぐり)のかさ。
焼け跡
 茎や葉に刺(とげ)がある鬼蓮の実。
菱の実。四隅が尖っている。
 髪の毛が多い男が髪を洗って、乾かしているところ。

【一四八】
 清潔だと見えるもの。
土器(かわらけ)。
 新しい金属製の椀。
畳表に刺して作るこもむしろ。
水を容器にそそぐ時の透き影。

【一四九】
 卑しく見えるもの。
 式部の丞(じょう)の笏。式部省は朝廷の儀礼・叙位等を掌るが、丞の程度では笏を持ってうやうやしくしても卑しく見える。
 黒髪の毛筋の悪い人。
 絹屏風に比べると、新しくても田舎屏風()布屏風)は卑しく見える。布屏風でも古び煤けたのは、そんな取るにも足りぬものとして、却って気にもならない。
 
 わざわざ新しく布屏風を仕立てて、桜の花を沢山胡粉(ごふん)や朱砂(すさ)で描いて、咲き誇らせて新しく布屏風を仕立てても。
引戸に仕立てた厨子(正式には開き戸)
太った法師。
 本物の出雲筵の畳。本ものの出雲筵は目が粗い。

【一五〇】
 胸がどきりとするもの。
 毎年五月武徳殿で行われる競馬(くらべむま)を見るとき。左右に分かれて早馬を競い合い、左方が勝てば今年は豊作と言われる。
髪の根元を結ぶ元結いを紙で縒るとき。
 親などが気分が悪いといって、いつもと様子が違うとき。まして悪疫が流行していると評判される頃は思いがけないことが起こる。
 また、ものがまだ言えない稚児が、泣き出して、乳も飲まない、乳母が抱いても泣き止まずに時がたった。
 
いつもの場所ではない所で、格別また誰の声ともはっきりしない人の声を耳にした時、胸がつぶれるのは当然で、他の人などが相手の噂など言うにつけても、真先にどきりとすることだ。妙につぶれがちなものは実にこの胸だ。
昨夜はじめて通って来た男の今朝の手紙が遅いのは、他人のことでさえどきりとする。

【一五一】
 愛らしいもの。
 瓜に書いた稚児の顔。
 巣にいる雀の子供が、鼠の真似のようにちゅうちゅう、鳴くと、踊るようにしてやって来る。

 二三歳の稚児が、急いで這ってくる道に、ちっちゃな塵が落ちているいるのを目敏く見付けて愛らしい指につまんで、大人達に見せる、とても愛らしく美しい。
 尼の髪のようなお河童あたまの幼女が、髪が目に被さるのを、手で掻き上げもしないで
くびをかしげて何かを見ているのも、美しい。