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みやこたまち
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陰花寺異聞(同人坩堝撫子1)

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 視界の周囲が黒ずんでチカチカしている。間もなく自分は落ちるだろうと思っている。落ちたら、彼女は僕をどうするだろうかと思っている。このまま濡れそぼる石段から突き落とすだろうか。一人で転げ落とされたら、いったい誰と入れ代わることになるのだろうか。尾美としのりはすっかり老けた。僕はそのとき生きているだろうか。そんな事を考えている。

 ―愛する人を殺人者にしたくないなら、殺してあげるしかない

 そんな文句が脳内を一閃した。義務感が僕をつかのま現実に還した。その時、すでに人生の走馬灯はくるくる回りはじめていて、場面は大好きな『宇宙大作戦』を見ている情景だった。カーク船長は、戦う時いつも鯖折りみたいな体勢に押し込まれていた。まさに今の僕そのものだった。船長はどうやって戦っていたっけ。カークはいつも、キリスト教のお祈りの時のように両方の掌を組み合わせて、それを相手の背中に打ちつけていたっけ。脊髄への打撃、というよりも肺裏への一撃。スポックだったら、ちょっと首筋を掴んでやれば相手はぐったりと倒れるし、心を読むことだってできるのに。スポック。君は地球人とバルカン人とのハーフで祝福されずに生まれてきた。しかし、カーク船長はいいことを言った。
「この苦しみは、自分が生きていくためには必要だ」と。
 あれは何本目の映画だったか? スポック、マシュマロはおいしかったかい…
 鈍い傷みとゴリという音で、僕は三たび意識を取り戻し、取り戻さなければよかったのに、と後悔している。断末魔とは今の事だな、とわりと冷静に判断している。全身が痺れている。多分失禁脱糞警報発令かもしれない。女性の胸の内で、そんなかっこわるいまねは出来ないぞ。僕は最期の抵抗を試みる。そう。俺はカーク提督だ!
 ガチャ
 「あっ!」
 これは僕の声だったかそれとも彼女の声だったか、それとも誰か他の人の声だったのか分からない。奈落へ引き込まれる感覚が、むしょうに心地よかった。