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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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14―3 【愛】

 【愛】、立ち去ろうとする人が、後方に心がひかれる人の形だとか。
 うーん、それでなのか、字体がなんとなく複雑。

 そして、今の時代、恋愛/愛人/家族愛、それに自己愛……とかとか、漢字【愛】の百花繚乱だ。
 あっちでもこっちでも――【愛】、【愛】、【愛】

 そんな【愛】という漢字、いつ頃からあったのだろうか?
 それはなんと、2、500年前の紀元前500年の孔子の言葉にある。

  子曰わく、賜(し)や、女(なんじ)は其の羊を【愛】(おし)む、
  我は其の礼を【愛】(おし)む。

 これを簡潔に訳せば、「お前は羊を惜しむだろうが、私は伝統を愛し、重んじる」だとか。

 そんな【愛】を、兜(かぶと)に掲げたのが直江兼続(なおえかねつぐ)。そして、「逢恋」(ほうれん)という漢詩を詠んだ。

  風花雪月 情けに関せず
  邂逅(かいこう)し 相逢うて此の生を慰む
  私語して 今宵別れて事無し
  共に河誓(かせん) 又山盟を修す

 これを意訳すれば、我々の愛に、風花雪月は関係ない。思いがけず出逢ってしまった私たち、この愛ある生を愛しみたい。
 心からの話しをし、今宵は別れるが、大丈夫だよ。二人だけの秘密だよ、そしてそれを山河にも誓おう。

 【愛】は深いようだが、えっ!
 これって――『不倫愛』?
 どうもそのようなことらしい。

 NHKの大河ドラマ「天地人」、その直江兼続役は確か妻夫木君だったんだよね。
 その兜の【愛】が、実は『不倫愛』だったとは……。

 しかし、なるほど【愛】という漢字、「礼を愛しむ」の【愛】だったり、「相逢うて此の生を慰む」の不倫【愛】だったりして、とにかく、いつも波瀾万丈なのだ。