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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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13―3 【雪】

 【雪】、この字は、秒速1メートルで、空から舞い落ちてくる「ゆき」の様を表しているとか。

 そんな【雪】、球でもなく四角形でもない。あくまでも六角形の結晶なのだ。
 それは水分子が平面方向に凝集していく過程で、酸素の周りの三つの水素が等価に水素結合。つまり、それぞれが120度の角度で手を結んでいくからだ。

 こんな解釈に、「うーん、なるほど!」となるかどうかは……別として、【雪】は六花(りっか)、天花(てんか)、風花(かざはな)とも呼ばれる。
 そして叙情的な世界へと誘ってくれるのだ。

 さらに、そこに「女」が付けば、『雪女』となる。もうこれは神秘の極みだ。

小泉八雲の小説 『雪女』
 木こりの茂作(もさく)と若い巳之吉(みのきち)、ある夜、雪女が訪ねてきた。 
 だが、茂作は殺され、巳之吉だけが生かされる。
 その理由はまことに明白。巳之吉の方がイケメンだったから。

 雪女が消えてから時は流れ、巳之吉はお雪という女と恋に落ちる。そして十人の子供もできて、幸せな日々。
 だが不思議なことだ。お雪は歳をとらない。
 巳之吉は言う。
「お雪は、あの時に会った女、そう、『雪女』のようだ」と。

 掟(おきて)があった。『雪女』と呼んではならないのだ。
 これで、お雪は消え去ってしまった。
 そして、巳之吉に残されたのは、十人のガキンチョが……うじゃ、うじゃと。

 この物語の感想を、もし関西風に述べさせてもらえば――
「あっちゃー! えらいこっちゃ!」

 【雪】、それはなにもロマンチックな世界だけではなかったのだ。
 こんなにも人間くさい世界もあったのだ。