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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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12―4 【羅】

 【羅】とは、鳥や小動物などを捕獲するための網のこととか。
 そして、その字の前に、衣がひるがえる様を意味する「娑」が付いて『娑羅』(さら、しゃら)となる。

  祇園精舎の鐘の声
  諸行無常の響きあり
  娑羅双樹(しゃらそうじゅ)の花の色
  盛者必衰の理(ことわり)をあらわす

  おごれる人も久しからず
  ただ春の夜の夢のごとし
  たけき者もついには滅びぬ
  偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ

 これは平家物語の冒頭の言葉。
 この意味を簡単に解釈すれば、祇園精舎の鐘の音には、永遠に続くものはないという響きがある。
 娑羅双樹の花の色は、それを表してる。春の夢のようなものであり、栄えた者も塵のように滅びていく。
 この文中に、娑羅双樹の花の色は盛者必衰の理をあらわすとある。

 ならばどのような花で、どんな色なのだろうか。
 それは夏椿に似ているが、別種。

 娑羅双樹の花、京都妙心寺(みょうしんじ)の東林院(とうりんいん)で、毎年六月に公開される。梅雨時に咲き、一日で散っていく儚い白い花なのだ。
 庭園の緑の苔に、白い花がはらはらと落ちているさま、生滅流転の儚さを充分醸(かも)し出す。

 【羅】は、『娑羅双樹』の花の色となり、それはまさに盛者必衰の理を思い至らせてくれる。